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FROM OUTSIDE2018.12.21

照明は心の問題とどう向き合えるのか #1

建築家/内藤 廣

(2013年3月21日 内藤廣建築設計事務所にて)

建築家・内藤廣氏に、IALDの催し「ENLIGHTEN ASIA IN JAPAN2013」、そして照明デザインのあり方を、外部の立場から語ってもらった。内藤氏は、東日本大震災復興のため、5人の建築家で「帰心の会」※1を結成し、積極的に被災地に関わりながら、震災以後の建築のあり方を問い続けている。また、土木・都市計画・ランドスケープデザインなどの領域をまたがって都市景観を考えることを提唱する一方で、建築だけでなくインスタレーションやインテリアデザインまでも手掛けるなど、横断的に活動している。東京・渋谷駅の再開発でも渋谷駅中心地区デザイン会議の座長として、マスターアーキテクトの役割を務める。
内藤氏には「ENLIGHTEN ASIA IN JAPAN」へ来場していただき、シンポジウムも聴講していただきその上で批評と激励の生の言葉をいただいた。(2013年3月21日 内藤廣建築設計事務所にて)

イベントの所感

今回のイベント「ENLIGHTEN ASIA IN JAPAN 2013」は、なかなか素晴らしいものだったと思いました。建築の世界はいささか疲れてしまっていて、あそこまでのことはなかなかできないような状況です。照明は今、技術変革の真っ直中にあります。それだけに、きちんと新しいものを見せていくことが求められています。企業もつば迫り合いしているところですから、お金を出しやすい、という状況なのだと思います。こういうことができる時期にはどんどんやったほうがいいでしょう。 今はまだ、いわゆる業界の人たちが、それぞれの会社の仕事というレベルで来てくれています。それはそれできちんと機能しているのでよいでしょう。ただ、もっと学生たちや若い人たちの姿が会場に増えたらいいとは感じますね。純粋に照明に興味のある人たちがイベントに来てくれるかどうか、これから問われるでしょう。より幅広い層をイベントに呼ぶには、やり方はいくつもあるはずです。

「今回のイベントは、素晴らしいものだと思いました。建築の世界は少し疲れてしまっていて、
あそこまでのことはなかなかできません。照明は今、 技術変革の中で新しいものを見せていくことを求められています。」

※1 帰心の会
東日本大震災被災地を受けて、建築家に何ができるのかを問うために、伊東豊雄、山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和世の5名の建築家が「帰心の会」を結成。10万人以上の人びとが家を失い、無味乾燥な仮設住宅での厳しい暮らしが続く中、より人間的で居心地の良い場所を提供したいとの想いから、「みんなの家」プロジェクトを提唱。「みんなの家」とは、(1)家を失った人々が集まって語り合い、心の安らぎを得ることのできる共同の小屋、(2)住む人と建てる人が一体となってつくる小屋、(3)利用する人びとが復興を語り合う拠点となる場所である。帰心とは、故郷に帰りたいと願う心の意味。

照明という仕事

私の仕事の中でも、照明デザイナーの方といろいろとクロスオーバーするところはあるのですが、お願いしてデザインしてもらうまでに私たちが至っていないというのが正直な感じです。私たちが設計をするときには、一気にウワーッとやってしまうところがあるので、まず構造や設備というところを押さえていかなくてはなりません。どうしても照明計画は後回しになってしまう傾向があります。私のほうのエネルギーが足りていないのかもしれないのですが。
私は公共の仕事が多いので、設計費を掛けられないことが多い。だからこそ照明デザインというカテゴリーを、もっとパブリックに認めさせる必要があるのかもしれませんね。企業ではアドバタイジング的な効果を見込むこともあるだろうけど、公共ではそこまで認識が至っていないのだと思います。イベントとしてライトアップするとかいうケースはありますが、費目としては別立てですからね。ところが恒常的に公共建築に照明デザイナーが入って何かをやるという場合は、残念ながら費目が立たない。
費目が立たないからやることができない。そういうところが遅れていますね。照明デザイン自体は認知されているけれど、照明、光をデザインする人がいて、そこに費用が発生するという認識までは持ってもらえてはいない。未だ照明器具メーカーのサービス業務、製品の価格に乗っかっている んでしょう、という感覚が役所の側にあるのではないでしょうか。 では、それをやめさせればうまくいくか、とも言えないわけです。インハウスでデザインをしている人たちが多くいるわけです。照明に限らず、これはあらゆるデザイン業界全体に言えることで、プロダクトでも若い人たちがデザイナーを目指しながら食べるためには企業でやるしかないか、という選択肢になってしまう。
若い人たちが自然にデザイナーとしてインディペンデント(独立)になりうる状況とはとても言えません。そういったことを含めて、変えていかなくてはならないことが数多くあります。

資本の論理

ライティングって見れば見るほど、どうして「バブリー」に見えるのかという話があるんです(笑)。照明デザイナーの皆さんは努力されているし、素晴らしいエンジニアリングもある。しかし、どうしてもある種、商業主義とかグローバリズムに飲み込まれている状況なわけです。それ自体は社会に要求される、大切な一面でもあるだろうとは思います。しかしそれに浸かったままでいいのかということです。
一方で、3.11の東日本大震災以降の2年間、私たちがどういう時間を過ごしてきたかというと、心の問題だったり「鎮魂」だったり、そういうものとも向き合ってきだわけです。ものすごくリアルな現実を見せつけられたのですから。ところが照明というのは、非現実だったり、非重力的や非物質的なものだったり、夢のような世界をつくり出せる。言ってみれば「捏造」された物語にしてしまう。照明には、そういうものを表現してしまう性質があるのでしょう。資本の論理、「近代」「大衆化」といってもいい。それと「3.11」以降の心の問題とどう折り合いを付けるのか。三陸の被災地へ行くと、夜は真っ暗で何も見えない。満潮になると道路も埋没してしまう。そこにあるのは完全な闇だけ。「あの闇の中に何があるのか?」からスタートするのもありなんじゃないかと思うんです。それは絶対に世界へ発信し得るような価値になるんじゃないかと思います。福島の問題をはじめとして、われわれはまだ渦中にあるわけで、「起こったこと」ではなく、「起こりつつある問題」としてこれから生かしていかないと、被災された方々に本当に申し訳ないと思います。

PROFILE

建築家 / 内藤 廣 HIROSHI NAITO

1950年神奈川県生まれ。1974年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1976年同大学院修士課程修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(マドリッド)、菊竹清訓建築設計事務所を経て、1981年内藤廣建築設計事務所設立。2002〜11年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学教授。2007〜09年グッドデザイン賞審査委員長。2010〜11年東京大学副学長。2011年〜東京大学名誉教授。
主な作品に「海の博物館」(1992年)、「安曇野ちひろ美術館」(1997年)、十日町情報館(1999年)、島根県芸術文化センター(2005年)など。受賞・著書ともに多数。

照明は心の問題とどう向き合えるのか #2  誰の味方か

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