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イベントレポート

2020.11.11

第4回IALD Japan WEBINAR「全国で活動する若手照明デザイナー」

現在IALD Japanに所属する照明デザイナーは90名を超え、北海道から九州まで様々な場所を拠点に活動を行っています。今回のWEBINARは「全国で活動する若手照明デザイナー」をテーマに、オンラインセミナーの特性を活かし、北海道エリア、九州エリアの若手照明デザイナー2名をパネリストに迎え、それぞれの活動を紹介するとともに、その土地ならではの光や仕事にまつわるエピソードについて話していただきました。

 

まずは、モデレーターである東京のRipple designの岡本賢氏より、今回のパネリストである福岡の仁設計の青木千春氏、北海道のKaori Endo Lighting Designの遠藤香織氏の紹介があり、普段会員同士でもあまり聞くことのできない自己紹介やプロジェクトの話をうかがうところからセミナーが始まりました。
仁設計の青木氏は生まれも育ちも九州で、出身の長崎市は世界の新三大夜景に選ばれるほど非常に美しい夜景で知られ、ランタンフェスティバルやハウステンボスの光の王国など、地元が光の観光都市としての成長期に育ってきたと言います。建築を学んでいた学生時代に照明デザイナーを志し、福岡にある九州随一の照明デザイン事務所に勤務。プロジェクトを通して都市の夜間景観の創造に深く関わる経験をし、建築家のご主人と立ち上げた照明と建築のデザイン事務所で「記憶に残る九州の光景をつくる!」と目標を掲げ、照明デザイナーとして活動をしていると話されました。

 

現在携わっているプロジェクトは、住宅から店舗への改装や住宅リノベーション、佐賀での寺院の秋の紅葉ライトアップ、さらには福岡という地の利を活かして、空路で一時間半である隣国の中国での住宅リノベーションなど様々。それぞれのプロジェクトで心がけているのは、その地方の伝統や土地柄を尊重した計画を立てることだと話してくださいました。

続いて、北海道の札幌市で照明デザインの活動をされているKaori Endo Lighting Designの遠藤氏。生まれも育ちも北海道で、大学卒業後に東京の照明デザイン事務所で数年勤務した後、スウェーデン王立工科大学の建築照明デザイン科大学院に留学。卒業後は現地ストックホルムで照明デザイナーとして計6年ほど勤務し、2014年秋に帰国して北海道で独立、現在は主に道内の宿泊施設や個人邸、ランドスケープやオフィス、保育園などの照明計画をされているそうです。

 

プロジェクトについては、スキーリゾートや札幌雪まつりのイベント照明などについて話されました。北海道はスキーリゾートの開発が盛んで、ホテルや別荘、民泊のような宿泊施設などのプロジェクトが多く、設計範囲に屋外の照明計画が含まれる場合は、まず冬季に雪が積もった状況を想定して照明プランを考えるそうです。例えば積雪を見越して、あるプロジェクトでは特注で5m程のポールとスポットライトを組み合わせた照明を採用し、樹木やランドスケープのポイントとなるエリアを照らしました。また、光の効果として輝度が夏と冬では数倍変わってしまうので、常にそれを念頭に置いて冬に合わせた明るさを設定し計画を行うそうです。

 

別荘住宅の照明計画であれば立地が自然の中にある環境で周りが完全に闇というケースがかなり多く、市街地と全く異なる明るさのバランス調整を常に考えていると言います。普段の仕事とは異なる例外的なプロジェクトとして、イベント照明のコンセプトデザインと監修を担当された2018年の「札幌雪まつり」を紹介。その年は日本とスウェーデンの外交樹立150周年記念の年にあたり、スウェーデンの教会を雪像で再現してライトアップするというもので、かなりカラフルな光を用いた遊びのある演出を計画し、建築照明とは違った面白さがあったと話されました。

その後、モデレーターの岡本氏の自己紹介も簡単にあり、岡本氏の問いにパネリストのお二方が答える形でディスカッションへと進んでいきます。

 

「照明デザインの仕事をする上で福岡や九州エリアならではのエピソードはありますか?」との問いに青木氏は、「九州は温泉地が多く、温泉の出る施設を設計する際に照明器具の選択肢が限られ、特に泉質に硫黄が多いと対応できる照明器具がほとんどないというのが悩ましい」と回答。遠藤氏からは、「温泉は日本人の一大エンターテインメント、雰囲気をよくするために温浴施設向けの器具の種類が増えればいい」という意見がありました。

次に「スウェーデンの照明デザインの学校ではどんなことを教わるのですか?」との問いに対して遠藤氏は、「スウェーデン王立工科大学の中にある建築照明デザインプログラムの大学院で学びましたが、デイライティング(昼光照明)の授業があったのがすごく印象的だった。ヨーロッパでは日光を含めたものもライティングデザインの一部とされていて、そういった本当にベーシックなところも勉強できたのはすごくおもしろかった」と答えました。また、入学の条件についての問いには「入学するには試験はなく書類選考で、英文のモチベーションレター(志望動機書)と推薦状の提出、さらにある程度以上のTOEFLスコアが必要だ」と教えていただきました。

また、ご夫婦で事務所をされている青木氏には「ご主人が建築家で自身が照明デザイナーであるメリット、強み」について質問がありました。「それぞれの専門性が高いのでタッグを組むとすごく強いし、打ち合わせもすぐにできて、細かい変更もほぼオンタイムで把握できるので時間のロスがない」と青木氏は言います。また、照明の仕事であっても積極的に建築の提案をすることも多く、その逆のパターンもあると、建築家と照明デザイナーのご夫婦で事務所をされている青木氏ならではのお話もありました。

 

最後に、リスナーからの質問をきっかけに日照時間で1時間ほどの差がある北と南で、各地域における自然光に対する感覚の違いについてディスカッションが行われました。大学で美術を専攻していた遠藤氏は自身の経験として、絵画の授業で先生に「やっぱり北海道の人ってグレーとか青っぽい絵を描くよね」と言われたことがすごく記憶に残っていると言います。それは冬季の北海道のグレーっぽい空と雪に落ちる影の青い色という印象が無意識に染みついているからではないかと話されました。

 

一方で青木氏は、九州は非常に昼間の時間が長く、光もある程度強いので、室外と室内の光の色温度の差が激しいと強い違和感を覚えるときがあると言います。特に地元で照明計画を行う際は事務所の方針として、昼間、室内の利用をメインとする空間であれば温白色や、もう少し自然光に近いような色温度を選ぶように心がけていると話されました。

 

お二方の話を聞いた岡本氏は、高温多湿のアジア圏ではすっきりとした昼白色や昼光色の高い色温度の光が好まれ、逆に冬季の寒さが厳しい北海道のような北国ではナトリウムランプのようなあたたかく感じる低い色温度の光が好まれる傾向にあると話し、都道府県による自然光に対する感覚の違いは季節や風土の違いが関係しているかもしれないと締めくくりました。

 

【日時】2020年9月25日
【会場】IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】岡本賢
【パネリスト】青木千春、遠藤香織 ※敬称略
【主催】IALD Japan