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イベントレポート

2020.10.15

「アジアの拠点都市で仕事をする照明デザイナーに聞く、「これまで」と「これから」」

新型コロナ禍に見舞われ、第6期が始まる頃には予想もしていなかった状況となった2020年。今期最後となる第3回WEBINARはリモートの利点を活かし、アジアの拠点都市である福岡・香港・シンガポールの3つの都市をつなぎ、海外に拠点を置き活動する照明デザイナー2名をパネリストに迎えての開催となりました。インターネットを使い世界中どこにいても手軽に打ち合わせができる今、海外で仕事をする2名のパネリストが肌で感じる「これまで」と「これから」について、自分たちが仕事をする国の状況も踏まえて、詳しく話してくださいました。

 

まず初めに、香港からLIGHTLINKS INTERNATIONAL LIMITEDの田中氏が登場。イギリス留学やイタリアでの勤務経験、国内でも海外案件を中心に活動していた経緯もあり2011年に香港で今の会社を設立。丸9年を迎えた2020年はとても大変な年になり、香港ではコロナは第1・2波と比較的コントロールされているものの、仕事をする上では昨年からの社会情勢の不安定さが心配と田中氏は言います。「スタッフもほぼ全員香港人で年齢も若いので、彼らの将来を思うと今後どう仕事を進めるかということをよく考える必要があるし、2020年はターニングポイントになる年だ」と話されました。仕事としては香港が4割、中国本土が4割、あとはマカオその他といった割合で、プロジェクトの種類としてはあまり絞り込むことなく、色々なことを満遍なく進めているそうです。

 

続いて登場したのは、シンガポールに拠点を置くnipek(ニペック)の藤井氏。もともと海外志向が強く、アジアで仕事がしたいということもあり2009年にシンガポールに渡り、2013年に今の会社を設立。シンガポールでの仕事が8割、海外の仕事が2割あり、海外の仕事は国もばらばらで、クライアントはシンガポールにいるのにプロジェクトはギリシャ、コラボレーションする建築家の事務所はアメリカにあるということもあるが、国籍を気にせず働くこの環境が好きだと藤井氏は言います。コロナの状況については、4月にサーキットブレーカーが発動され2ヶ月間の不要不急の外出禁止はあったが、今は平常に戻りつつある。ただ、建築現場などで働く外国人労働者の中で感染爆発し、国内の建築現場が全て止まるなどシンガポール国内の仕事は大打撃を受けたと話されました。

 

田中氏と藤井氏の「これまで」の話を聞いたモデレーターの松下氏は、2020年というのは大きな変革期であったけれども、歴史的に見ればこれまでも変革がある年は何度もあったと言います。後半は、この変革期に夢を持ち、アジアを拠点に様々な国の仕事をされているお2人に、今後をどのように考えているのかを「これから」の話としてお聞きしました。
今後について田中氏は言います、「先行きは読めない部分はあるが、自分達が9年で培ってきたノウハウや顧客を大事にして行きたいと考えているので香港から動くことは多分ない」と。一方で藤井氏は、「シンガポールは香港よりも社会情勢が安定しており、外国人でいることの住みにくさもそれほどなく、今は香港から人とお金がシンガポールに移動してきている」と言います。

 

そして、パネリストの2人から、学生を含め照明デザイナーを目指す次世代を担う人たちに対して、どこで就職・起業するかにとらわれず、自由に仕事をしていくための提言がありました。
まず、「柔軟性」「寛容性」「先見性」の3つをキーワードにあげた田中氏。日常茶飯事に起こる色々なことに動じず、それ受け入れながら対処していく「柔軟性」はとても重要で、要領よくこなしていける考え方の流れを自分の中に確立しなくてはいけないと言います。次の「寛容性」では自分独自の何かを持った上でコミュニケーションを取り、相手の言うことを受け入れ自分の中に蓄積していく、許容できる心の広さが必要である。そして「先見性」。先を読む力、次どうなっていくのかを見誤ると大変なことになる。日頃からい色々な情報に触れ、現地の人やクライアントと話すことで、5年後、10年後にどうなっていたいか、どうしたいかを見出さなくてはいけないと話してくださいました。

 

藤井氏は、世の中の変化として「アナログからデジタル」「フィジカルからヴァーチャル」への5年分ぐらいの変化が、5ヶ月のうちに進んだようなイメージだと言います。その結果、照明デザインでは2つのことが起こる。ヴァーチャル空間の利便性に反してフィジカル空間の体験が貴重なものになっていくことで、フィジカル空間での体験を良質なものにしていく照明デザインというものは実は需要が増えるというのが1つ。このフィジカルとヴァーチャルの橋渡しを光でデザインしていく、光をメディアとして使っていくというのは非常に可能性があると言います。もう1つは、照明デザイナーの働き方の変化。オンラインミーティングやリモートワークが当たり前になり、どこに拠点を置いているということに重要性はなくなってくるので、国際的に仕事をすることが今よりももっと簡単になっていくと言います。1人1人がこれからどのように働いていくのか、会社を経営しているのであればどういうチームを組んでいくのかというところに多様性と可能性が広がっていくのではないかと話してくださいました。

 

最後にモデレーターの松下氏から、海外で仕事をする上ではローカルを知るということが重要であると話がありました。その都市の歴史や民族性、人間性、言語を知り、つながることで初めてグローバルな仕事ができる。グローカルという言葉がありますが、グローバルとローカルのどちらも理解している人が仕事もうまくいくのではと締めくくりました。

 

【日時】2020年8月21日
【会場】IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】松下美紀
【パネリスト】田中康一、藤井茂紀 ※敬称略
【主催】IALD Japan