Activity
イベントレポート
2022.06.17
第9回 IALD Japan Webinar 「舞台・建築、同じ照明だけど、どこが同じでどこが違う?」
舞台照明と建築照明はともに光を扱う仕事ですが、どのような共通点、相違点があるのでしょうか。2022年6月17日のWEBINARは、その答えを見つけるべく開催されました。モデレーターは山下裕子氏(Y2 LIGHTING DESIGN)と馬場美次氏(馬場美次デザイン室)。ゲストは舞台照明を主に手がけている伊東啓一氏(エム・ジー・エス)、柳瀬敏実氏(東京舞台照明ホールディングス)のお二人です。
モデレーターが自身とゲストについて簡単な紹介を行った後、伊東氏と柳瀬氏に、それぞれの事例について解説していただきました。
伊東氏が率いる株式会社エム・ジー・エスは、コンサートやファッションショー、美術展、イベントなどの照明オペレーションから建築物のライトアップまで、幅広い光のデザインや照明シーンを創り続けています。
代々木第二体育館で行われたYOHJI YAMAMOTOのファッションショーでは、仮設照明としてピンスポットを20台だけ使用し、シーンごとに手動で色を変えて全体的な照明効果を生み出しました。
東京都現代美術館で開催された石岡瑛子氏の展覧会では、入り口付近を深みのある赤色で染め上げた様子や、三島由紀夫の「金閣寺」の映画に登場する、真っ二つに割れた金閣寺を再現したセットにハレーションライトを当てて輝かせた事例が紹介されました。石岡瑛子氏デザインの衣装を纏ったパフォーマーの映像が壁面に大きく投影された空間では、その映像と同じ衣装を纏ったトルソーも一緒に展示されており、映像の光量とトルソーを照らす配光が絶妙なバランスに保たれることで「トルソーが映像から出てきた」と感じられるライティングを実現するなど、デリケートな照明技法が見られました。
「野村家三代狂言」では、東大寺そのものを舞台背景としてライトアップ。堂々たるライトアップシーンから、環境の暗闇を活用してシューティングポイントを狭くすることで東大寺を小さく見せるシーン、さらにピンクやイエローの光を用いた華やかなシーンなど、多彩な光景が生み出されていました。
柳瀬氏が率いる株式会社東京舞台照明ホールディングスは、日本の舞台照明のルーツのひとつであり、演劇やコンサート、展示会やテーマパークなどの照明に加えて、器材の販売やレンタルも行っています。
柳瀬氏はまず、オペラとコンサートの事例を紹介してくださいました。オペラでは舞台前のフットライトとLEDスポットをメインに、ムービングライトを1台用いて、シーンに沿った空間を創出していました。事例として紹介されたコンサートでは、ステージ上の円形パネルの背景セットに、楽曲に合わせて地球や月を投影。映像は照明側で用意し、球体に見えるようにテクニックを駆使するなど、さまざまな技法でステージライティング全体をコントロールしたそうです。
フィギュアスケートのショーでは、器材の湿気対策や、短時間で各スケーターの動きを把握して演出を組み上げなければならない等、特殊な環境下で行われる舞台照明の事例をご紹介いただきました。
大規模なスタジアムでの事例も。東京ドームで開催されるイベントは舞台・セットともに極めて大きいため、仮設照明に相当量の仕込みを必要とし、多くのポジション(演出、ステージ、音響、運営 etc…)の調整が必要となります。2013年の国体の開会式・閉会式でも、350台ものムービングをすべて有線で仕込み、調光卓も2卓用いて制御したそうです。
また、建築照明寄りの事例として、熱海にあるMOA美術館のエスカレーターのライトアップや、イベントと連動した名古屋のテレビ塔ライトアップ、武道館ライトアップの内容も紹介されました。
その後はディスカッションに移り、舞台照明と建築照明の違いを改めて議論しましたが、つまるところ、どの照明でも「常設か仮設かで大きな違いが生じる」という話に。
照明を仮設で設置することが多い舞台照明では、置きたい場所に器材を設置し、自由に変更できるなど、制約が少ないことが特徴です。一方、照明器具を常設することが多い建築照明は、設計後は変更が難しく、動線上に設置できない、耐久性を求められるなど、あらゆる要素を考慮しなければなりません。
光で感動を生み出すという点では同じですが、舞台での感動は短時間で強烈に与えられるものであり、建築照明がもたらす空間体験の感動は何年もじわりと続いていくもの、という違いがあります。
理想とする光を創り上げるまでのプロセスに異なる部分が多々あり、馬場氏からは「極端に言えば“対象物に光を当てる”以外の共通点はないのでは?」というコメントもありました。
しかし近年、サッカースタジアムにてピッチを照らすスタジアム照明が水銀灯からLED照明に変わり、音楽に合わせてテンポ良く明滅する演出が可能になるなど、舞台照明と建築照明の融合を感じる瞬間も増えてきました。
建築照明と舞台照明が互いに近づけば、より良い光環境、新しい感動が生まれる。そんな希望を見出しつつ、今回のWEBINARを終えました。
【日時】2022年6月17日
【会場】IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】馬場 美次 山下 裕子
【パネリスト】柳瀬 敏実 伊東 啓一
【主催】IALD Japan