Activity

イベントレポート

2025.10.2

のぞいてみよう 照明デザインの世界! Vol. 5

光を学ぶ、光でつなぐ
「照明デザインとは何か」。この問いに真正面から向き合う機会が、8月8日に福岡で設けられました。日本国際照明デザイナーズ協会(IALD Japan)が主催した学生向けセミナーです。会場とオンラインを結んだハイブリッド形式で、照明を志す若い世代と、現場で活躍するデザイナーが直接対話しました。

レクチャー:”照明デザインとは?” 松下 美紀 株式会社 松下美紀照明設計事務所
技術と芸術、その間を探る
冒頭の講演は、松下美紀氏(松下美紀照明設計事務所代表)。松下さんは住宅、オフィス、商業施設、都市空間といったスケールごとに照明の役割が異なることを示しながら、光が「単なる明るさ」ではなく、人間の感情や行動を左右する要素であることを強調されました。「照明デザインは科学と芸術の融合であり、空間に命を吹き込む仕事です」。その一言は、聴講した学生だけでなく、実務者にとっても原点を思い出させる響きを持ちました。

講演:”なんで、私が照明に”  谷口 水樹 さん 株式会社 松下美紀照明設計事務所
若手が語る「なぜ照明か」
続いて登壇した谷口水樹氏(同事務所デザイナー)は、自身が照明デザイナーを志すに至った経緯を語ってくださいました。大学時代、博多のライトアップイベントに参加した体験が照明デザインに興味を持つきっかけだったそうです。光が人々を惹きつけ、空間に新しい価値を与える瞬間を目の当たりにし、進路を決めたと語っておられました。
紹介された沖縄「こどもの国Night Zoo」の設計プロセスは、学生だけでなく現役デザイナーにとっても興味深いものでした。敷地全体を「つながり」というテーマで統合し、色彩や動線に物語性を与えています。光が人と動物、現在と未来を橋渡しする装置となる設計思想は、照明デザインの可能性を雄弁に物語っていました。

講演:”照明デザインを通してみてみると”  安田 真弓 さん SPEIRS MAJOR LIGHT ARCHITECTURE
国際的視点と環境へのまなざし
安田真弓氏(SPEIRS MAJOR LIGHT ARCHITECTURE、Senior Designer)は「照明デザインを通して世の中を見る」という視点を提示しました。安田さんのキャリアは国内外のプロジェクトを横断し、その中で文化的背景や環境問題への配慮が欠かせないことを実感してきたといいます。
特に印象的だったのは、渡り鳥が都市の光に惑わされ高層ビルに衝突する現実や、オーストラリアの先住民文化を尊重したデザインプロセスの紹介でした。光が社会や自然環境に与える影響は、デザイナーが避けて通れない課題であることを改めて突きつけられました。

学生の問いかけが示す未来
質疑応答では、学生から「大学での学びと実務の違い」や「就職前に学ぶべきこと」など、率直な質問が投げかけられました。登壇者たちは、体系的な基礎知識を得るための通信教育や、実際のプロジェクトに参加する経験の重要性を説き、なかでも谷口さんは次のようなことを先輩から受け継いだ言葉として用いられました。
「99%の人は照明を意識しないが、100%の人が光の影響を受ける」。この言葉が象徴するように、光は目立たずとも人の心身に作用します。学生の素朴な疑問は、私たちに教育の不足や実務と理論のギャップを突きつけると同時に、未来をどう支えるかを考えさせる契機となりました。

光を託す世代へ
セミナーを締めくくったゲストコメンテーターの馬場美次氏(馬場美次デザイン室)は「照明デザインはチームワークであり、建築家やエンジニアとの協働が不可欠です」と語りました。技術と芸術の両立、そして多分野を横断する協業こそが、現代の照明デザインを支える基盤であると指摘しました。
今回の学生セミナーは、未来の担い手に光を託す場であると同時に、私たち実務者自身が問い直される場でもありました。教育の不足、環境問題、文化的配慮といった現代的課題に、私たちはどのように応えるのか。学生の眼差しが真剣であればあるほど、その問いは鋭さを増します。

結びに
照明デザインは「光を操る」技術であると同時に、「光で社会を照らす」責任でもあります。今回のセミナーは、学生たちにとって未来を切り開く入り口となり、現役デザイナーにとっては原点を見直す鏡となりました。
光の持つ可能性と責任を胸に、次世代とともに新しい照明の地平を切り拓いていく——そのための第一歩が、この福岡の会場で確かに刻まれました。

【日時】2025 年 8月 8日 18:00 ~ 19:30
【会場】松下美紀照明設計事務所
【モデレーター】 馬渡秀公  マワタリデザイン株式会社 ※敬称略
【ゲストコメンテーター】 馬場 美次 馬場美次デザイン室 ※敬称略
【主催】IALD Japan