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イベントレポート
2022.08.5
のぞいてみよう!照明デザインvol.4
2022年8月5日に「のぞいてみよう!照明デザインVol.4」と題したWEBINARが開催されました。このWEBINARは照明デザインに興味を持つ学生に向けたイベントで、照明デザイナーの職能や仕事ぶりについて、実際に現場で活躍している照明デザイナーが様々なエピソードを交えて紹介します。
まずマワタリデザイン株式会社の馬渡秀公さんは、照明デザイナーを「都市環境、ランドスケープ、建築物、インテリア、アート、イベントなどを対象とし、建築家や事業主とのコラボレーションで、照明のスキルを駆使して空間作りにかかわるプロフェッショナル」と定義しました。
続いて、株式会社ライティングプランナーズアソシエーツの中村美寿々さん、焔光景デザインの原田武敏さんの2名のパネリストからお話を伺いました。
最初はフランス留学中にパリの夜景の美しさにひかれて照明デザイナーになったという中村さんです。
携わった仕事の実例を挙げながら、現代に求められている照明デザインの役割、長崎市で都市全体の夜景デザインに関わった案件について詳しく教えてくださいました。
現代の都市照明デザインには、環境への配慮の先に「その都市ならではの光、都市の個性を表現する都市照明が求められている」と指摘。
長崎市の実例では、街並みの歴史などを伺いながらの現地調査と並行して夜の光環境の調査を行い、課題を抽出して、遠景と中・近景両方の視点から双方向的に夜間景観の向上に取り組むことを目指されたそうです。 更に、港の地形を生かした「港に流れ込む輝き」、和華蘭文化の町々の個性を表現する「おおらかに彩られたまち」、キリシタンや被爆の歴史を感じさせる「祈りを誘う灯り」という3つのコンセプトを夜間景観の整備にあたり掲げたそうです。
平和公園エリアでは、静けさを邪魔する不快なグレア(まぶしさ)をなくし、適正な照度の計画と、平和を希う光、祈りの感情を呼び起こす光を表現しようと知恵を絞られました。祈念像の照明はできるだけ像の陰影を強く見せないようにするために、一般的な下からライトアップではなく超狭角の光で遠距離から水平方向に照らす手法に変更し、祈念像への道を街の軸線に据えて広場には格子状に光の粒を設置しました。大浦天主堂や祈念坂、鎮西大社 諏訪神社の鳥居、眼鏡橋の照明も、策定した夜間景観マスタープランに沿って改善が行われました。
地域全体を結びつける線・面的な視点、住まう人が心地よく感じられる夜の街並み、観光客が宿泊する動機付けになる実利的側面、自分たちの街の明かりだと誇ることができ、かつ人々に愛される夜景を意識されたとのことです。
次は、日本庭園や寺社仏閣などを、紅葉や桜のシーズンに仮設照明でライトアップされている原田武敏さんです。携わったライトアップの事例を紹介し、ライティングによる空間の見え方の変化、仮設照明で工夫している点について解説してくださいました。
浜離宮恩賜庭園など同じ場所でも季節ごとに異なるライトアップの写真を紹介し、「仮設=光の多様性」として「光によって空間の印象はすっかり変わる」と指摘。旧古河庭園のライトアップを例に、それまでの大型の器具による投光照明ではなく、光量の小さい器具を使い、太陽に向かって咲くバラの花に対して、夜も同じように上からのダウンライティングの光でバラを浮かび上がらせ、背景となる周囲の木々に光を当てて奥行き感を出す―─といった工夫によって、空間が劇的に変化する様子を示されました。
「庭師が丁寧に手入れしている木々の樹形を丁寧に見せたい。同じ石垣でも光の当て方、色、強さが違えば印象が変わる。光の当てかたで、昼間は見えにくいノミの跡が見えたりする」「歴史的な建造物や庭園に自分なりの解釈で光を当てて別の見え方、表情を作り出せるのも仮設照明デザインの楽しみ」と仕事の醍醐味を語られました。
続いて、福岡大学大学院2年の福永脩生さん、工学部4年の清水菜月さんから、学生代表として質問していただきました。福永さんの「照明器具を置くと、昼に訪れる人に見えてしまうが」という質問に、中村さんは「悩ましい。器具が小さくなり、目につきにくくなっているが、できるだけ隠れる場所に置くのと、周囲の色に合わせて塗装して見えてもよいように配慮している」。原田さんは「見えにくい石の裏や木の枝に器具を置き、ケーブルを杭のロープ柵に這わせるなど昼間に気にならないよう施工するように工夫をしている」と苦心を明かされました。
清水さんの「照明自体が主役になるときと、対象物を照らすライトアップとの使い分けで意識していることは?」との質問には、中村さんは「大事な論点。建築や空間、モニュメントを見せたいときは、光そのものが主役になるのではなく、対象物にどう陰影をつけてみせるかを意識する。対してイルミネーションは光のキラキラ感や演出効果そのものを楽しみたいとき」と違いを解説されました。原田さんは「カラーライティングはライトアップとイルミネーションの中間で、光の色自体を見せる演出である」と話されました。
最後に、司会の梅田かおりさんが「光自体は見えない。光自体でものをつくるか、見せたいものに光を当ててどう見せるか、という二つのやり方がある」という総評とともに締めくくり、今回のWEBINARを終えました 。
【日時】2022年8月5日
【会場】IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】梅田かおり ※敬称略
【パネリスト】 馬渡秀公 原田武敏 中村美寿々 ※敬称略
【主催】IALD Japan
学生の皆様へ:
聴講された学生の皆様より届いた質問に、今回登壇したデザイナーが回答しています。是非参考にしてください。
Q1. 照明には暖色系や白っぽい色があると思いますが、どんな色を使えば魅力的な空間になるのか、場所によって選択に違いはあります
か?
A1.
色温度(光の色)の選択はヒトの概日リズムに関連する太陽色温度をもとに,ヒトの活動内容に応じた環境光色温度を選ぶことが多い
です。たとえば、、、
■休息の場・・住宅,ホテル等でリラックスした雰囲気を出したい場所・・・夕日の色温度のような暖色系(オレンジっぽい、すなわ
ち低い色温度)の光
■活動の場・・事務所,体育館等で活発に活動したり働いたりしたい場所・・・ヒトが一番活動的な時間帯の太陽色温度(白っぽい、
すなわち高い色温度)の光
を参考に選択すると、過ごしやすい快適な空間となります。(水馬氏)
Q2. 今後デザイナーに必要とされる能力を知りたいです。
A2.
気候変動やSDGs、ダイバーシティ、ソーシャルデザイン、シェアリングエコノミー、コロナパンデミック、日本では人口減少、などな
ど、現代の社会活動や価値観は様々な変化の中にあると感じます。この中でも未来に向けてデザインを発信し続けていく為に、広い視
野や柔軟な価値観、シームレスな活動領域を持つ事、様々なステークホルダーとの協働の中でデザインを実現していく為の能力が必要
だと思います。照明デザインに限っては、照明制御の進化が進んでいるので計画施設の運営を理解する事が必要になると思います。
(馬渡氏)
Q3. 電気の力を借りない自然光を利用した作品なども作っていますか?
A3.
太陽光の動きを追いかけて動く鏡を高層ビルの屋上部などに設置し、建物内に積極的に太陽光を引き入れ、人工照明のように自然光を
利用する例などもたまに見かけることがありますが、窓から入る自然光を建物内に取り入れながら、センサーを使ってその量を測り、
調光システムを使ってタイムリーに人工照明のバランスを制御することなどはよく行われています。
最近のプロジェクトでは、LEDの高効率化で自然光を取り入れて空調負荷を増やすより、ある程度の遮光をして人工照明を増やす方が
総エネルギー量を減らせるという事例があったそうです。
また、屋外で蓄光などの素材を使って自然光を昼間のうちに集め、夜に発光させて照明の補完として段差を明示する、インジケーター
として使用することもあります。
建物自体を設計する際、太陽光の入射角が浅く、横からの窓の光を使いにくい北欧の建築家たちは、いかに太陽光を上手に建物内部に
引き入れるかということに神経を使い、太陽光を間接的に使用したり、天井のシリンダーを通して拡散光として利用したりと、自然光
を空間の光のデザイン要素として上手に使っている建物が多いです。私も特注照明器具の一部に窓からの太陽光を反射する板を取り付
けて天井を間接的に明るくしたことがありますが、照明デザイナーとしては自然光も人工照明と同じような扱いで、空間の中の光の
要素の一つとして提案の一部に入れたいという気持ちはいつもあります。
また、昼間のうちに太陽光で発電しておいて、蓄電して夜間照明の電力として利用するなど、なるべく自然エネルギーを使っていくよ
うな提案も照明デザインの中に盛り込んでいくことが責務かと思います。
Q4. 今回のセミナーでは、都市照明から植物まであらゆる方法の照らし方があることを学びました。都市照明デザインと植物や建物の良い
ところを照らすデザインをするにあたり、「綺麗に照らす」以外に意識している演出はありますか?
A4.
都市環境の中での照明デザインは、隣り合う建物の照明や道路の照明など、既存の周辺環境との調和を考えていくことが大切です。
まちなみの夜間景観を整備していく場合、「まぶしい街路灯に、遮光シェードをつける」「ハイパワーな投光器を用いている既設
ライトアップの照明の角度を変えて、光が対象物以外に漏れないようにする」など、不快な光・不要な光を修正していく、光の引き算
を行うことも非常に大事だと考えています。新しく照明を追加しなくてもそれだけで光環境が改善される場合もありますし、綺麗に照
らした対象を引き立たせることにもつながります。(中村氏)
庭園でのライトアップで植物を見せる見せ方には、植物そのものに光を当ててキ レイに見せる見せ方がひとつ。植物を影(シルエッ
ト)として見せる見せ方もひとつの演出となります。例えば、地面にモミジの影を落として見せたりすること もあります。(原田氏)
Q5. 今まで携わった事例のなかで、一番やり辛かったのはどんなプロジェクトでしょうか?また、どんなところが難しい、やり辛いと感じ
られましたか?
A5.
コミュニケーションがうまく取れなかったプロジェクトでしょうか。建築家やインテリアデザイナー、施工者、電気設備の担当者、
照明器具のメーカー、クライアント…と、小さなプロジェクトでも、多くの立場の人がかかわるのがデザインだということを日々感じ
ていますが、照明器具の納まりを確認したいのに該当する図面が作図されていなかったり、知らない間に勝手に照明計画を変更された
り、と照明デザインの意図を伝える機会を無くされると、どんどん実現が難しくなります。結局は人と人との仕事なので、照明デザイ
ナーとしてチーム内で尊重してもらえるように振舞いたいと心がけています。(中村氏)
弊社ではライトアップを設計から施工(電気工事)まで手掛けているため、実際に自分自身で照明器具を動かしたり、光の向きの調整
を行ったりしています。そうした施工までは手掛けずに、設計のみを行い、監理として現場の職人さんに指示を出して光の調整を行う
場合にやり辛さを感じることがあります。こちらの光の意図がなかなか伝わらないと、自分自身で動かして調整した方が早いと思って
しまうことがあります。(原田氏)