Activity
イベントレポート
2022.03.4
第8回 IALD Japan Webinar「がんばれ!住宅照明」
照明デザインの業界でもあまりテーマとして語られることの少ない「住宅照明」について、照明デザイナーはどのように考えているのか? それを明らかにするべく、2022年3月4日のWEBINARは「がんばれ! 住宅照明」をテーマに、菅原千稲氏(フィラメント)がモデレーターを務め、パネリストに小山憲太郎氏(コヤマケンタロウデザイン事務所)、岡本賢氏(Ripple design)、福多佳子氏(中島龍興照明デザイン研究所)をお招きして開催しました。
まずは各々の住宅照明の取り組みや事例について軽くお話しいただいた後、事前に実施したアンケート結果を発表。ほとんどの照明デザイナーは住宅照明を手がけた経験があること、主に設計事務所経由の依頼であること、ただ、住宅照明の割合は請け負っている照明デザイン業務全体の10%程度と回答した人が最も多く、その比率が低いこともわかりました。
さらに、住宅照明を手がけることについては「住宅照明は重要だが、ビジネスとしては割に合わない」という回答が最も多い結果に。
ここで、アンケートに長文の回答を書かれた松本浩作氏(有限会社スタイルマテック)にも登場してもらいました。
松本氏は「施主の明るさ感覚や生活スタイルなどを把握して設計する必要がある」という“大きな手間”と、「完成まで約1年かかるが、報酬は50万円が限界」という“利益が出ないビジネス”の実情を明かしました。
ネガティブな意見が多い一方で、最も身近な照明であることから、その重要性は認識されています。福多氏は照明効果を理解してもらう難しさに触れつつも「住宅だけがまだ一室一灯照明であり、啓蒙を続けるべき」、小山氏も「住宅に明かりが灯ることで、街の明かりになる」と、夜間景観を含めた明かりに言及。岡本氏は「照明デザインを依頼する施主は熱心に勉強しているため、期待に応えたいという気持ちになる」と語りました。
次の議題は、住宅照明における失敗について。
アンケート結果を分析したところ、技術面の失敗、設計事務所とのコミュニケーションの失敗、施主とのコミュニケーションの失敗の3つに大別できることがわかりました。
パネリストからも、明るさの感覚は年齢による変化があり、それに伴って必要な照明も変わっていく等の課題が次々と挙がり、住宅ならではの難しさが浮き彫りになりました。
これらに対しては、住人が自分でランプを選んで替えられる口金タイプの照明器具にする、調光可能な照明にするなど、長期的な視点での提案がカギになるようです。
さらに、アンケートで印象深い回答があった角田尚法氏(maxview 一級建築士事務所)と東海林弘晴氏(LIGHTDESIGN INC.)からも直接ご意見をいただきました。
角田氏は、設計事務所に「照明の意図」を確実に伝えることの重要性を強調。施主の希望やコストの都合で壁紙や照明器具が変更され、意図していた照明効果が出ないという事態を防ぐため、被照射面の効果や輝度などを詳しく説明し、理解してもらえるよう心がけているとのことでした。
東海林氏は、施主にこちらの思いやアイデアを押し付けてしまうリスクを感じ、「照明デザイナーの役割は一般の人々が照明の効果を知り、それを自分で実現できるようレシピを伝えることだ」という考えに至ったそうです。
ここで、二つの案が出ました。
ひとつは「住宅照明検定」の創設。正しい知識を学び、試験を経て資格を取得できる制度があれば、高い次元で照明の話ができる人が増えると期待できます。
もうひとつは「住宅照明賞」をつくること。評価対象をアイデアやストーリーに絞り、照明デザインの幅の広さを競う機会は、照明デザイナーが自身の思考の癖から抜け出すキッカケになると考えられます。
終了時間が迫ったころ「ポジティブな話もしたい」と、岡本氏。「私は住宅照明をやったことで、照明器具の知識が増えた。住宅用の照明器具には工夫されたものがたくさんあり、施設照明にも応用できる。コストダウンのテクニックも上がった。住宅照明をやれば、照明デザインのスキルは間違いなく上がる。特に20~30代の若い世代の照明デザイナーにこのメリットを知っておいてほしい」。
最後に菅原氏から、照明デザイナーが集まって住宅照明を盛り上げる活動を行う「Team Home Lighting」を立ち上げたことが報告され、今回のWEBINERは終了しました。
【日時】2022年3月4日
【会場】IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】菅原 千稲
【パネリスト】小山 憲太郎 岡本 賢 福多 佳子
【主催】IALD Japan