SDGs
【S-6】広がる SDGs の世界でととのう照明とは?!
「ととのう」は⼼⾝の調和やバランスを整えることを指し、⽇本のサウナや⼊浴⽂化においても使われています。建築家のクマタイチ氏、プロサウナーのととのえ親方、医師の加藤容崇氏の3名をパネリストに迎え、照明デザインでいかに「ととのえ」たら良いか、SDGsの⽬標達成年である 2030年に向け、あるべき照明の姿を考察していきます。
冒頭に本セミナーの趣旨説明がされた後、早速モデレーターの小西氏からととのえ親方に「サウナで得られるととのい効果、そもそも『ととのい』とは何なのか」についての質問がありました。「実はサウナの入り方ブームなんですね。サウナに入って、水風呂に入って、休憩する。この時間の心地よさが、『ととのう』ということなのです」とととのえ親方は答え、「再起動する感覚、また1日、朝が始まったようなスッキリ感がすごい」とその効果を説明します。
クマ氏も「自分と向き合うことがサウナではしやすいと思っています。サウナに入って考えて何かしらアイディアを思いついても、ととのえすぎて帰る頃に忘れていることもありますし、それも含めて何かその再起動的な経験ではありますね」と同意します。
医学的な観点からは、「すごくシンプルに言うと、急激な温度の落差を利用したショック療法みたいなものがサウナの効果です」と加藤氏は説明します。「いわゆるジェットコースターとか感動した映画ってなぜ観るかというと、それは人間が他の動物と違う仕組みを持っているから。それがいわゆる落差、緩急をつけることで、ピンチのときに活性化する交感神経を使った後というのは、深くリラックスできることを人間は知っているわけです。サウナに限らず、そういう急激な緩急をつけた後の体の変化、独特の爽快感が好きということだと思います」。
「サウナだと温度や湿度が重要な鍵になってきますか?」という小西氏からの質問に、加藤氏は「体感温度もそうですし、今回のテーマである照明とか香りとか、色々なパラメーターがある」と答えます。ととのう照明とは何か、照明でととのえ効果が得られるのかのエビデンスを取るために、加藤氏は事前に実証実験を行ったそうです。「結果としては、照明のコンディションで自律神経の状態は大きく変わります。実感として1800ケルビンぐらいの暖かい色温度の光、夕暮れ時ぐらいの赤っぽい光がやはり一番落ち着きます。実際に統計学的な有意差という、差があるかどうかを判定する指標も大きく差が出ているので、心拍数が一番落ち着く光の色温度は1800ケルビンであったということです。サウナ・水風呂・休憩のどこにその1800ケルビンの光を配置するかは、サウナの設計者・デザイナーのセンスになると思います。個人的にはサウナ室の中か、あるいはととのった後に使う休憩スペースに配置すると、そのリラックス感が得られるのではないか」と、加藤氏は実験結果を説明されました。
続けて小西氏は、ととのえ親方に「光という観点で、かなり凝ったサウナ空間はあるのですか?」と問いを投げかけます。ととのえ親方は「海外では、照明デザインがしっかりされていて、サウナ室内の照明デザインも多種多様にありますが、日本ではほとんどありません」と答え、日本のサウナ室の中はブルーオーシャンで、本セミナーに参加している照明デザイナーが一致団結すればサウナ室の照明も面白くなり、レパートリーも増えるのでぜひ取り組んでほしいと提案しました。
また、建築の視点から「照明によって『ととのう』空間づくりは可能か」という問いに、クマ氏は自身が設計した『サザエ』というサウナを紹介。「海が真横にあるので、海を見ながら入るのもいいと思いましたが、外気浴という外で風を楽しむ時間がサウナでは大事。景色を諦め、その代わりにトップライトで光を取ることを考えた」とクマ氏は話します。このサウナに入ったことのあるととのえ親方は、「世界中のサウナーが驚いた建築」だと言います。室内ではトップライトで光を感じることができ、外気浴中には横にある水風呂から照らされた、『サザエ』の壁に映る光の揺らめきを見ながらボンヤリとできる。日本のサウナでは、照明デザイナーが携わった初めての建築で、世界でも注目のサウナとなっているそうです。
「照明でとととのう」について実証実験の考察をされた後に、サウナをマインドフルネスの形で活動されていることについて小西氏から質問された加藤氏は、「明かりとSDGs、特にそのマインドフルネス的な文脈で言うと、サウナはいわゆる一種のマインドフルネスのテクニックの1つだ」と言います。実際に被験者80人を呼んで、マインドフルネスの指標であるFFMQを測定したところ、サウナ前・サウナ後と比べて、明らかにウェルビーイングの指標が改善。ただ気持ちではなくて、実際に体の中がきちんとリラックスして満ち足りた気持ちになり、その自己認識が明確になり、ウェルビーイングに繋がっていくという結果だったと加藤氏は解説しました。
最後に、小西氏は「日本のあかり文化っていうのは、他の世界とはちょっと違った文化の醸成というのがあると思うんですね。日本の中で育まれた新しいサウナ文化と、長年培われてきているあかり文化、光に対する感覚は、すごく似ている部分があります。そういう意味ではサウナ空間と照明デザインが一緒になると、究極のととのう空間、ひいてはそのウェルビーイングの世界が作れるのではないかなと思います」と話し、締め括りました。