ヘレナ・ジェンティーリ氏は、ブラジルで建築の資格を取得後にイタリアに移り、ミラノの大学で照明デザインの修士と博士号を取得。その間、ベルギーやスイスでプロジェクトを経験し、現在、インドのアイボリーエッジ社で照明プロジェクトのディレクターをしています。このような異文化体験を持つ彼女の視点で、直近のインドにおける事例紹介を交えながら、各国の文化的背景が照明デザインに及ぼす影響についてセミナーが展開されました。
セミナーの冒頭、ジェンティーリ氏は「コラボレーティブ・デザインとは何か」と問いかけます。辞書によれば、英語のcollaborateという単語は、1845年に初めて使われた比較的新しい言葉で、本来は、同義語でより古い語源を持つoperateと同じように、「共に働く」という意味を持っていました。しかし、多文化環境において、単なる「一緒に働く」という意味に加え、「目的を共有する」、「モチベーションを高める」、「妥協する」などのより高いレベルでのコラボレーションが求められると言います。
このような意味でのコラボレーションが照明デザインの分野で求められる原因の一つに、文化的な背景があると彼女は考えます。例えば、南欧のイタリアでは、自然光は明るく、夏は濃い影を落とすものとして捉えられるのに対し、ヨーロッパでも北寄りのベルギーでは、自然光は「ソフト」で、冬に長い影を落とすものとして捉えられています。ヨーロッパの中だけでもこれだけ捉え方に差があるのに、地理的に離れた地域、例えばインドとなるとその差はより著しく、それを克服するためのコラボレーションが、照明デザインのプロジェクトを遂行する上で必要になると訴えます。
ジェンティーリ氏がインドで照明デザインを手掛けたHMG Stone Galleryのプロジェクトでは、建築と内装のデザインをイタリアの事務所が担当し、照明の制御システムをドイツの会社が、現地インドでの調整および現場監理はインド人のデザイナー達とブラジル人の彼女が担当しました。
このプロジェクトの教訓は、関係者全員が共有の目的を持たなければならないとか、器具の仕様など全てを記録に残さなければならないということだけでなく、特に発展途上国においては、品質管理などに関する「限界を許容する」ということが時に必要だということ。
それが、本来「共に働く」という意味でしかなかったコラボレーションいう作業の多文化環境における側面であることを、私たちに教えてくれます。
【日時】2019年03月07日 11:15-12:15
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 101会議室
【プレゼンテーション】ヘレナ・ジェンティーリ氏(アイボリーエッジ ディレクター)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞
Profile
Helena Gentili
Helena Gentiliはイタリア系ブラジル人の独立系照明デザイナーで、イタリアの国内外で照明コンサルタントとして活動しています。照明デザインの分野における経験は、官民両部門ばかりでなく現代照明芸術の領域にも及びます。現在は、インドのバンガロールを拠点とするIoTソリューションプロバイダーのIvoryedgeでDirector Lighting Designer(ディレクター職の照明デザイナー) を務め、住宅やホスピタリティ、文化遺産、都市照明、商業スペースといったさまざまな応用分野を対象にしたモノのインターネット(IoT)に基づくオートマトンソリューションを統合した、いくつかの照明デザインプロジェクトのコーディネートと企画に従事しています。現代の夜間景観における人工照明の役割について研究を深めるべく、建築と都市計画について学んだ経験を持ち、照明デザイン学の修士号と建築・都市計画学の博士号を保有。近年は、Politecnico di Milano(ミラノ工科大学) のLighting Design & Led Technology(照明デザイン・LED技術) 専門修士課程で非常勤教授を務め、国際および全国的なセミナーやワークショップに講演者として招かれています。2014年より、イタリアの照明業界団体 APIL(Associazione Professionisti dell'Illuminazione) のプロフェッショナルメンバー。