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【EL05】ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)―照明の計算・文書化ツール

デザインを常に最新の状態に保つことを可能にし、照明の計算と文書化を同時に済ませることで、文書化に要する時間を劇的に削減できるツール、ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)を利用した照明デザインの一例として、シドニーから15kmほど離れたブルーマウンテンズいう自然豊かな地域に計画された住宅プロジェクトが紹介されました。

この住宅の特徴は、雄大な自然を望む眺望と、木、石、コンクリートなどの素材へのこだわりです。このような特徴を、照明デザインの観点からいかに効果的に演出するかという課題に対する解決策を導き出す過程で、BIMが活用されました。
第一の課題は、周辺の雄大な景色を見下ろせる、二階建ての住宅の一階中央に位置する中庭でした。この中庭の中央に設置され暖炉の背面に石の外壁が計画され、デザインチームは、この石の壁に照明を当てることで、暖炉の炎と眺望を邪魔することなく、中庭を間接的に照らすことを提案しました。石の壁に程よい照明を当てるために、デザインチームは、BIMソフトのAutodesk Revitと照明解析ソフトのElumtoolsを活用しました。

The outdoor fireplace – Invisible House by Peter Stutchbury

 

The above images identify key architectural features within the Invisible House by Peter Stutchbury, top left – soaring light scoop with honey coloured plywood, top right – outdoor fireplace that overlooks the Blue Mountains, bottom centre – central corridor with concrete and Mudgee stack stone walls on either side. The floor plan used in the background courtesy http://www.modernhouse.co/listings/invisible-house/

 

まずRevitの3D空間で住宅をモデリングし、外壁の仕上げ材に関するパラメータや、周辺環境のパラメータを入力した上で、Elumtoolsでいくつかの照明オプションを解析・検証します。そのような過程を経てデザインの方向性が決まったら、Revitでより正確に照明器具の配置や型番を詰めていき、最終的に照明器具表に落とし込みます。Revitでは、モデリングの過程で照明器具表が自動生成されるため、数量の拾い出しや見積もりも、一旦表が設定されれば後は自動で行われ、デザインからドキュメンテーションへの移行が非常にスムーズかつ迅速に進みます。加えて、デザインの変更にも容易に対応できるだけでなく、法規チェックもRevitが行なってくれます。これによって、照明デザイナーは、より本質的なデザインの検証に集中できるようになり、理想的な照明環境の追求が可能になりました。

デザインチームは、このようなデザインプロセスを建物の他の部分にも適用することで、第二の課題(打ちっ放しコンクリート壁に挟まれた狭い廊下の照明)、第三の課題(リビングルームの曲線状の木製天井の照明)も解決していていきました。このようにして、BIMというツールを使って最適の照明環境を作り上げることで、プロジェクトの最大の魅力である眺望と素材本来のよさを、最大限に引き出すことに成功しました。


【日時】2019年03月06日 14:15-15:15
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 101会議室
【プレゼンテーション】ファラ・デバ氏(スティーンセン・ヴァミング ライティングデザイナー)、クリス・ロック氏(JHAエンジニアーズ デジタルインフォメーションデザイナー)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞

Profile

Farah Deba

Deba氏は、照明デザイナーとして8年あまりの実務経験を持ち、公共・都市、文化、商業、健康、教育、都市景観向け屋外照明といった、多種多様な部門を横断するプロジェクトに取り組んできました。
現在勤務するオーストラリアの企業では、3D BIM環境における照明関連のコンテンツ・文書作成の分野にも密接に携わっています。

Chris Lock

Lock氏は約18年間、機械製図工として業界に携わり、BIM、各種システム、データ管理に強い関心を寄せています。現在はJHA EngineersでDigital Information Manager(デジタル情報マネジャー) を務める傍ら、学位の取得も目指しています。
持続可能な開発のための教育(ESD) への関心も強く、同分野でも実務経験があり、学位取得の一環として地中熱源排熱システム(ground source heat rejection system) に関する論文を執筆中です。
Lock氏の現在の職務には、過去10年にわたり重要かつ象徴的なプロジェクトでBIM担当者に類する役割を担った 経験が反映されています。