建築から街づくり、都市全般から見えてくる、急速に発展する中国の照明デザインの実情を、最近の事例の紹介をまじえながら、棟梁国際照明デザインセンター社長の許東亮氏に語っていただきました。
元々は建築家である許氏は、日本の歴史的建築に興味を持ち、奈良を中心に日本に7年間滞在し、一級建築士の資格を取得。奈良滞在中は、伝説の宮大工、西岡常一氏との交流もあったそうです。そんな経歴とは対照的に、許氏の中国での照明デザインは、非常にメッセージ発信が強いものです。それは許氏の独特の世界観によるものです。
許氏は、京都の枯山水の寺のスライドを見せながら、この枯山水の庭は「メッセージ」だと言います。僧侶が庭の砂利の整備をするとき、砂利でパターンを描きますが、そのパターンは日々変わるもので、僧侶のその日の気分を表現する「メッセージ」だと。同様に、中国での照明デザインプロジェクトもまた、許氏にとっては人と街への「メッセージ」なのです。
©toryo international lighting design
彼の照明デザインは照明設計、光のアートワーク創作、光のデジタルデザインと三つの分野に分かれています。きまじめに照明設計をやる傍ら、都市でのパフォーマンス、メデイアファサードと言われる大規模な場面演出にも挑戦しています。そのような圧倒的規模の照明デザインを、許氏は、巨大なテレビ画面と捉えており、その下地として建築は利用されるとしています。
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それに対し、会場にいたドイツの著名な照明デザイナー、アンドレアス・シュルツ氏は「照明デザインは、建築と共存し、建築の良さを引き出すべきだ」と都市における大規模な夜景演出に対し懸念を表明しました。許氏は「多くの場合、私も建築をリスペクトしている。でも、目的に合わせて照明デザインを超えてやるのも一つの方向性と時代の要望なのではないか」と答え、これは照明デザイナーの新しい課題で、まだまだ発展途上と理解していただければ」と答えました。
©toryo international lighting design
最後に、モデレーターの面出氏は、許氏の個人やビルオーナーの利害を超える圧倒的な力を持つメディアファサードデザインに関して、許氏の作品というよりは「中国の社会・経済体が作り出した都市の風景」ではないかと結びました。
【日時】2019年03月06日 11:15-12:15
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 101会議室
【プレゼンテーション】許 東亮氏(トーリョーインターナショナルライティングデザインセンター ジェネラルマネージャー)
【モデレーター】面出 薫氏(ライティングプランナーズアソシエイツ代表)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞
Profile
Xu Dongliang
2005年、日本照明学会の最優秀デザイン賞受賞。「1Wの光(1W of Light)」 「光の会話(Conversation of Light)」「光のカーペット(Carpet of Light)」「光の菩提(Bodhi of Light)」などの照明アート作品があります。2012年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、中国のデザイン作品を代表して「ライトピア(Lightopia)」が出品されました。2015年には北京国際デザインウィークで中国建築1000(China Construction 1000)に作品が展示されました。