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光を伝える言葉
東海林 | 照明デザイナーが事業主から直接依頼を受けるケースは増えてきています。照明デザイナー、インテリアデザイナー、ランドスケープ・アーキテクト。この3者への直接指名はぐんと増えています。もちろん今まで通り、建築家から声をかけていただくケースが一番多いのですが。 |
松下 | 私の場合は、直接クライアントからの指名頂くプロジェクトが多いです。光に対して興味を持ち、建築家やコーディネーター任せにしないで照明デザイナーを選んだというだけで、そのクライアントはレベルが高いと思います。プレゼンテーションにしても話をよく聞いてくださり、理解してくださいます。 |
中島 | プレゼンテーション以前のコンセプトづくりの問題なのですが、中国のデザイナーから聞いた話ですが、はじめにCGで見栄えのする絵をつくってしまう。すると多くの場合、見た目その絵に近い照明がメーカーなどの協力ででき上がってしまう。日本も同じような状況になりつつあるのでは、と心配しています。一般の人は照明の心理や生理的などプロフェッショナルな部分まで見ませんから、ある意味、CGは分かりやすいのかもしれませんが。 |
インテリアデザインも同じようなケースがありますね。CGパースを描いてそれを工務店に渡せば、あとは何とかしてくれるというような。日本の工務店は優秀ですから、できちゃうんですよね。
岡安 | 建築家とか建築の名前がまずあって、照明は付属品扱いというのを苦々しく思っているんです(笑)。いい建築にいい照明デザインが施されるというのが一番いいわけです。でも必ずしもそうとは限らない。どうしようもない建築やインテリアだってあるわけです。 そこにバツグンの照明デザインが入って、驚くほどすごい建築空間に生まれ変わるということはあるわけですよね。そういったものをアーカイブにできないだろうか。つまり建築に寄り添わない、純粋に照明についてのアーカイブ。評価軸があって、この照明の評価は各軸でこうなっているからカッコいい、みたいな。モノをつくっている側も、評価の低いところが分かればそれをどうカバーすればよいかというのは負担が少ないんじゃないでしょうか。 |
東海林 | 照明の価値とか世界観を言葉に置き換えるための体系をちゃんとつくる必要があるのではないか。たとえばワインのことを考えてみると、もともとは地元でつくったワインを地元やその周辺で消費するというのが当たり前だった。ワインがこれだけ日本中で飲まれるようになったのは、実は1980年頃からなんです。ワインが広まるためには、ソムリエの存在があります。そのワインの価値を言葉に置き換えて伝えてくれる。「このワインの色はレモンがかった麦色」とか「ほんのりブラウンがかったオレンジ色」なんて表現をします。これも意味があって「ほんのりブラウンがかったオレンジ色」と表現されたワインがカベルネ・ソーヴィニヨンなら酸味が強いことがわかる。味や香りも同じように、言葉によって個性や価値を表現できる。照明はどうでしょう。明るい暗いということではなく、どのように明るいのか暗いのかを伝えなくてはいけない。心地よい明るさなのか、イライラするような明るさなのか。一般の人は「明るいのはいいけれど暗いのはだめ」という判断基準しかない。「心がほぐれるような暗さ」というのは暗いことをプラスに評価している言葉でしょう。色温度を説明するにも、何ケルビンというのではなく、電球の色ですよという。 |
松下 | 言葉で照明デザインを表現することはとても大事なことなんですよね。 |
東海林 | 伝えるということは本当に難しい。石井幹子さんから「セミナーをちゃんとやるのは当然。最後に照明デザイナーらしいパーティーを開きなさい」と仰せつかったんです。シンポジウムやセミナーとはひと味違ったものを考えました。照明デザインや照明デザイナーとは何か、伝えるためのイベントとなったと思います。 |