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ROUND TABLE2018.12.21

ENLIGHTEN ASIA IN JAPANを
通して伝えたかったこと #2

ライティングデザイナー/東海林弘靖、中島龍興、近田玲子、松下美紀、岡安泉

(2013年4月16日 都内某所にて)

照明デザイン界

照明デザイン界、デザイナーの側だけではなくメーカーまでも含んで、これからどうしていけばいいと思われますか。

東海林 まず、照明デザイナーの定義をしておきたいと思うんです。今回、セミナーに出てくれたザン・シンさんが言っていたんだけれど、一説によると中国には20,000人の照明デザイナーがいるんだと(笑)。正確に言うと、それは「照明に関わる人」の数なんですね。日本では、IALDの会員になっているのは70人です。IALD全体で約700人ですから、1割が日本です。ただ、その70人しか照明デザイナーではないのかというと、それは違います。照明デザインに携わっていても、IALDの会員ではない人の方が多い。そうすると、照明デザイナーは70人の何倍にもなる。IALDでは照明メーカーで働く人はIALDのメンバーにはなれないんです。照明器具の製造・販売に携わるものは会員にはなれないと謳われています。IALDの定義を線引きにすると、日本では70名が該当するわけです。資格を満たしていても会員にならない人もいるでしょうけれど。メーカーの内部にだって、インハウスのデザイナーとしてちゃんとやっている人は大勢います。コンセプトだって同じようなものを打ち出してくる。では、なぜなんでしょう。ここにもうひとつ照明器具をつけるかどうかという選択を迫られた場合、メーカーのデザイナーはほぼ間違いなく付けるほうを選ぶというんです。所属する会社にメリットがあるから。そういうスピリチュアルな部分まで考慮して、照明デザイナーを定義しなくてはいけない。
中島 照明器具のデザイナーは会員になれないのですか?
東海林 照明器具のデザイナーについてのことには触れていませんでしたけれど、そこから製造・販売へとつながる部分でどうなっているのか審査があるんでしょうね。
中島 今でも照明デザイナーは器具をデザインするのだと思っている人は多いですよね。職能としての呼び方もはっきりしてほしい。照明コンサルタントとか、ライティング・コンセプターなどと言ったりもして、違いがよく分からないです。
東海林 私にも分からない(笑)。建設という枠の中で考えると、照明に関する責任者=コンサルタント。やっている仕事はデザインなんだけれども、そのデザインがちゃんと形になるように指示をして責任を取るからコンサルタントなんでしょう。IALDの非会員では、照明デザインに関する報酬をデザイン・フィーではなく、照明器具のバックマージンという形をとっている人も多くいます。IALDでは、ちゃんとした設計料にしようとしています。
松下 照明は学問でもあります。皆さんも学校で教えたりされたりしていますよね。私もいくつかの大学で教えているんですが、照明学なのか照明デザイン学なのか、照明計画学なのか。大学によってみんな違うのです。やはりIALDのような組織でちゃんと定義をしていかないと、学問として文科省が認めてくれません。照明デザイナーになりたい人はたくさんいます。でもビジネスモデルとしてどう広げていけばいいのかが分からない。学問として成立する分野にならないといけないんですよ。
中島 たとえばインテリアデザインの分野もそうですよね。建築士と違って国家資格がない。分野内が体系づけられていないように思います。照明デザイナーとは何か、というのはおそらくインテリアデザイナーとは何かというのと同じようなことなのでしょう。
岡安 私の場合、事務所名に照明設計事務所とつけていますが、少々ジャンルの違うデザイナーとしてくくられることが多いようで(笑)、ユーザーが幸せな気持ちになれば、趣味的なものに走ることもありますし、お金を取りはぐれることもあるし。松下さんの言われるビジネスモデルとはもっともかけ離れたところにいるデザイナーかもしれません。学問として体系づけることには大賛成なんです。重要なことだと思います。ただ、そこで照明のことを学んだ、ビジネスモデルのことを学んだ、それで誰もが照明デザイナーとして成功できるわけではない。デザイナーとしては、その先に何かもうひとつステップが必要じゃないでしょうか。先ほどインテリアデザインの体系化ができていないという話がありました。誰がインテリアデザインをやったっていいような状況です。照明デザインの体系化をはっきりとさせておかないと、誰もが照明に手を出して何が何だか分からないようなことになってしまう状況になってしまうのかもしれない。それを避けるのがいいのか、ボーダレスの状況のほうがいいのか。体系化することでボーダレス化が避けられるのかどうかも分からない。
近田 現在は二極化している状況だと思うんです。ひとつは照明デザイナーが自分のジャンルをどんどん外に広げていくというケース。もうひとつは、大きな組織が、光のコントロール、照明デザインをちゃんとやっていくという方向。ことに巨大プロジェクトの場合、照明デザインは巨大なものになると、他のジャンルと連携してちゃんとやっていかなくてはならず、それを統括する能力が必要になります。ボーダレスではとてもできない規模です。私たちのような小さい事務所では個性でやっているわけですから、むしろボーダレスの領域に侵食して個を発揮していかなくてはならない。

今でも照明デザイナーは器具をデザインするのだと思っている人は多い。
職能としての呼び方もはっきりしていない。照明コンサルタントとか、
ライティング・コンセプターなどと言ったりもして、違いがよく分からない。

建築も同じような状況になっています。巨大プロジェクトはゼネコンか大手事務所。個人名が出るものはほんの一握りです。個人でやっている建築家は、住宅か小さな商業施設、インテリアをやっているという状況ですね。一方、インテリアデザインの場合、昔は職人技が光っていた世界でしたが、質が落ちるけれど安い中国製や東南アジア製をとりいれるようになってしまった。経済のことを考えるとしょうがないというかもしれませんが、インテリアの世界が希薄なものになってしまった。

東海林 まず、日本の照明デザイナー70人、あるいはその何倍か。その数字がもっと増えていってほしいと思うんです。照明デザイナーの数が増えるということはどういうことか。単純に言えば、経済の中で照明の占める割合が増えるわけです。それと同時に幅を広げていく。アーティスティックな方向に向かうデザイナーもいるだろうし、エンジニアリングの方向に向かうデザイナーもいるというように。何がいいか悪いかという前に、社会の中での照明デザインの価値を認めてもらうことが必要なのではないか。数を増やしてフルイにかけるのではなく、数を増やしてまずフルイにのせるという段階なんです。
近田 私は今、IALDでプロフェッショナルメンバーシップ・コミッティの委員をやっています。より優れた仕事をしている会員をプロフェッショナル会員として認定しようというものです。世界中の会員から応募があります。作品のポートフォリオを見ると、見映えがするのは、なんといっても巨大プロジェクトです。どういう人たちがやっているかというと、たいてい大きな照明コンサルタント会社のシニア・デザイナーやディレクター。一方で、小さな事務所、ひとりでやっているような人のものは残念ながら規模も小さく見映えがしない。ただし、チャンスがない
わけじゃない。最近はリノベーションのプロジェクトがずいぶんと増えています。そこでは、大規模プロジェクトではできない、個性を出した光の演出ができるように思います。

まず、日本の照明デザイナー70人、あるいはその何倍か。
その数字がもっと増えていってほしいと思うんです。
照明デザイナーの数が増えるということはどういうことか。

ENLIGHTEN ASIA IN JAPANを通して伝えたかったこと #3  光を伝える言葉

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