ENLIGHTEN ASIA 2023 In Japan

DAY2 13:30~15:00

Technology

【S-5】イノベーションを照らす:進化する照明技術と照明デザイナーの役割

近年、照明コンサルタントの設計範囲が広がり、様々な技術的裏付けが大きな役割を担うようになってきました。照明デザインにおいてもデザインとエンジニアリングとの融合など、大きな時代の変化が到来しています。このセミナーでは、照明・調光システムメーカー、ホテル業界よりゲストを迎え、それぞれの視点からLED化の影響や照明デザイナーの役割の変化などについて、ディスカッションが進んで行きます。

モデレーターの両氏による、挨拶とアジェンダの説明からセミナーがスタートします。「本セミナーのテーマである『イノベーションを照らす:進化する照明技術と照明デザイナーの役割』を説明していきながら、経営者、運営者の面から見てもらえるようなディスカッションができればと思います」と金田氏が開会の挨拶。田中氏からは、『LED化による照明業界への影響』『最新技術によるホテル業界の変遷』『新しい照明制御』という3つのアジェンダを用意していると説明がありました。

まず、1つ目のアジェンダである『LED化による照明業界への影響』について金田氏は、ヨーロッパの照明メーカーから見たLED化について、増澤氏に問います。「2000年以降ヨーロッパでは省エネというものがまず頭にあり、法制化されて機運もすごく高かった。その面からより省エネについて、具体的な産業に対するプレッシャーがすごく大きく、それがLED化に進んでいった一番のエンジンだった」と増澤氏は答えます。

同じく、アメリカの照明メーカーから見たLED化への流れについて谷崎氏は、「政府主導で白熱灯の販売中止への動きが2010年くらいから始まり、段階的に白熱灯の発売を中止していくことで、LED化が一気に進んできた」と感じたそうです。それに伴い自社でも、LED向けの調光器、光システムなどを発売し始めたのが、2010年くらいだったと話します。一方、クライアント視点からJet氏は、2013年頃には館内の全照明にLEDを採用するよう指示があり、「大きな理由の一つとしては、LEDの省エネ効果。これはオペレーターとしてみると、すごく大事なことだと思います」と振り返ります。

「日本では2011年に東日本大震災が起こり、その翌年ぐらいから『電力を使うのが罪』のような風潮もあり、日本のLEDのマーケットが7,000〜8,000億の市場から突如1兆円を超えた。ちょうどその頃から日本でホテル第5次建設ラッシュが始まったと思う」と、所感を述べる金田氏。
続けて、2つ目のアジェンダである『最新技術によるホテル業界の変遷』について、Jet氏とのディスカッションへと進みます。「ホテルはこの10年で大きく変わりました。みんながホテルを選ぶ理由は『体験(エクスペリエンス)』で、特別な体験をしたいということ。そのため、ホテル側も体験中心の設計になり、照明の役割も大事になってきた」とJet氏。そして、照明デザイナーに対しては「本当にゲストの気持ちを考えながら、自分がそのホテルへ行くときの目的を考えながらデザイン、提案をした方がいいのではないか」とオペレーターの立場からの助言もありました。

『体験(エクスペリエンス)』という要求が出てきたことに対して意見を求められた田中氏は、ホテル設計の際には2つの軸があり、ゲストに対する体験以外にも、ホテルのオペレーションもとても重要だと。オペレーションする側の人たちの立場に立って、空間に対する照明デザインを作り上げていかないと、実はうまくいかない。いろいろな動線や使い方なども含めて設計することで、トータルとして良い空間になると言います。また、様々なプロジェクトをこなす中で、照明デザイナーの職能や役割、設計範囲の広がりをすごく感じる10年だとも語っています。

3つ目のアジェンダである『新しい照明制御』について、実機を用いながら増澤氏と谷崎氏とのディスカッションが進みます。増澤氏は、Bluetoothで制御する無線タイプのスポットライトを紹介。「DC48ボルト電源を使用しており、本機そのものがBluetoothの制御に対応しており、スイッチもなく、スマートフォンのアプリで操作をするというもので、つながり方としては双方向の通信をしているだけ。既設の配線があれば、新規で信号配線は不要なので、LED化しやすい例だ」と増澤氏は話します。

その中で、調光プロトコルについて意見を求められた谷崎氏は、「調光の制御方式には従来型と無線のものがあり、日本だと器具メーカーが主体となり制御もセットで設計されるものが多いのですが、ヨーロッパやアメリカには制御メーカーがあり、照明器具とは別に、制御を考えている」と日本と欧米との違いを説明します。ヨーロッパではDALIの無線化を進めるためD4iという規格が作られ、自社でもD4iに対応した無線用チップを開発。D4iに対応したDALIのドライバーにつなげれば無線化を実現できると谷崎氏は説明します。

これまでの話を聞いていたJet氏は、「Bluetoothやワイヤレスでシステムがつながれば、ホテル側で設定されたシーン以外に、パーソナライズの可能性を感じ、とてもワクワクしている」と話し、スマートホテルへの動きにもつながると期待を寄せています。

最後に金田氏は、「今も進化を続け、マーケットも使われ方も変わっていくなかで、照明デザイナーはどんどんその領域を広げ、それを加味した上で照明デザインをすることで自分たちも大きなマーケットを広げていく役割があるということが今日の結論です」と締め括りました。