禅宗様庭園における月明かりの様相
古来より、日本では月を愛でる文化があり、様々な芸術に取り込まれてきました。それは庭のデザインにも反映されています。たとえば禅宗様の白砂敷き庭園は、月明かりを受ける庭の表情を楽しんだと言われています。白砂による月光の反射が、どの程度室内空間に効果をもたらすか。『禅宗様庭園における月明かりの様相』について、レイトレーシンングを行えるシミュレーションソフトで検証された三谷氏にお話をいただきました。
シミュレーションの対象とした庭園は代表的な禅宗様庭園で、室町期に作庭された龍安寺の石庭、大徳寺大仙院南庭、正伝寺の庭。江戸期に作庭された詩仙堂、そして銀閣で知られる慈照寺の庭の5つです。
実際の月光の反射光効果はどのくらいなのか。まず、庭が白砂敷きではなかった場合をシミュレーションしてみたところ、庭自体は明るくなっていますが、広縁や軒裏も微妙に明るくなっているのがわかります。それが白砂敷きの場合は、白砂庭そのものは15倍も明るく、同時に広縁や室内といった部分もほぼ2倍の明るさであることがわかります。これは全く照明器具などない当時としてはかなりの明るさだったのではないかと三谷氏は話します。
次に5つの庭園の月明かりについて、時間とともにどう変化していくかを検証しています。冬至近満月日における室内から庭の見え方を検証すると、龍安寺、大仙院、正伝寺では白砂は光っているものの、室内の変化はあまりありません。一方で詩仙堂や慈照寺では、室内も含めた全体的な明るさが変化していると説明され、明るさの変化を示すグラフのかたちから前者を台形型、後者を山型と名付けています。例えば、台形型の大仙院は早い時間帯から一気に白砂が明るくなり、その輝度を保つが、光り方は単調。一方、山型の詩仙堂は白砂の明るさは徐々に増加し、明け方に向かってまた柔らかに下降していく様子がうかがえると話します。
また、月の高度が低い夏は、冬よりも庭は格段に暗いが、それでも白砂はある程度の光を反射しており、これを数値で見ると、また室町期と江戸期での違いが見えてくると三谷氏は説明します。室町期の庭では冬から夏で70%ほど減少していますけれども、江戸期の庭では、減衰が50%ほどに抑えられているのがわかります。さらに室町期の竜安寺や大仙院の景観シミュレーションを見ると、月を受けて明るく輝いている場所は、白砂ではなく広縁になっているのがわかります。ところが、夏の間、詩仙堂や慈照寺では広縁にももちろん月がさしますが、白砂の面がしっかり白く光っていることがわかります。
すなわち月の低い季節でも白砂が主役として輝くようにデザインされており、禅宗における白砂がまさに月そのものではなく、月明かりを受けたその風情を愛でる庭であったことがわかると三谷氏は話し、セミナーを締め括りました。
Profile
三谷 徹
ランドスケープアーキテクト