ENLIGHTEN ASIA 2021 in japan

照明デザイナーのパブリックポリシー

照明デザインの専門家集団(IALD Japan)が、混迷を続ける社会に対してどのような発言をして行くべきなのか。「ニューノーマル時代に期待される照明デザイナーの役割とは」をテーマに、照明デザイナーの小西美穂氏がモデレーターを務め、建築家である東京大学の川添善行氏とSDGインパクツ代表取締役社長の田瀬和夫氏をお迎えして、パネルディスカッションが行われました。

 

「照明とウェルビーイング(Well-Being)をつなげる照明デザイナーの職務」について小西氏からの問いに対して、川添氏は、照明デザインがよくて建築デザインがダメなんてありえない。箱のデザインにも影響を与え、それによって照明デザインにも影響を与える、両者を切り分けるのは難しいと考えていると言います。ウェルビーイングにおける照明デザインの役割は、美しい光や見に行きたいとあこがれるようなデザインつくることだと提起します。一方、田瀬氏は、ウェルビーイングの歴史に触れ、物理的条件だけではなく、よく生きていると感じられることが重要だと説明。川添氏が手がけた東大図書館に言及しつつ、機能性もさることながら、建物・空間が持つ意味、受け取る側がそこに共感できるか、一体感を持てるかが重要だとし、そこに照明デザイナーにしかできないことがあるのではと話されています。

 

次の問い「エネルギーの観点で取り組むべきこと」を聞かれ、川添氏は、照明は省エネ化が進んでいるため、エネルギーのインパクトがさほどないと強調。世界がよりスマートになるときに、照明デザイナーたちはスマートにやらないで、もっと違う価値を目指すと主張すべきだと言います。

 

「災害や防犯の観点で取り組むべきこと」の問いに対し、川添氏は東日本大震災の復興に携わったエピソードを紹介。デザイナーの南雲勝志氏たちと一緒に屋台を作ったとき、真っ暗な夜に一個の明かりが灯っただけで気分が大きく変わる、明かりにはそんな力があると再確認したと言います。一方、田瀬氏は人道支援に携わった経験から、一番危ないのはキャンプとトイレの間で、最初にすべきことは常夜灯をつけることだと。リスクは闇にあるし、逆に光は希望であるとも言います。

 

「質の高い照明デザインに向けてどのような活動をしていくのか」の問いに対し、川添氏は、同業の枠内での議論は必要だがそこに留まるのは問題で、内側での議論と広く共有される美意識、中と外を行き来するベクトルが照明デザインの底上げにつながると指摘。田瀬氏は、今ある技術はひとまず置いて、究極的にどんなものがいいのか、それに近づけるために今の技術をどう持っていくかという「逆算」を勧めます。

 

最後に、「この時代における照明デザイナーの役割とは」と問われ、川添氏は照明デザイナーとは「天照大神」だと言います。五感で一番卓越しているのは視覚であり、光によってモノが見えるようになるわけだから、「光はこうあるべきだから、建物はこう変えて欲しい」と言えるようなデザイナーが必要であり、建物の初期段階から建築家と照明デザイナーがコラボレーションし、照明デザイナーから建物の形を変えるような提案が増えて欲しいと話されました。田瀬氏も、今回のコロナ禍により、ようやく安心・安全・快適を超えた価値を人類が求め始めていると語り、照明も後から明るいのをつければいいではなく、照明デザイナーも時代に合った価値をどんどん出していくことが大切だと締めくくりました。

Profile

川添善行

建築家

東京大学

田瀬和夫

代表取締役社長

SDGインパクツ

モデレーター 小西美穂

照明デザイナー

ALG(建築照明計画)