Discovery of Lighting Design vol.1
国内外の照明デザインの現場を照明デザイナーがドキュメンタリータッチで紹介した動画を10月にPre-Eventにて事前配信。第1部のこのセッションでは、照明デザイナーの長町志穂氏がモデレーターを務め、土木デザイナーの東京大学・中井祐氏と、クリエイティブプロデューサーの近藤ヒデノリ氏のお二人をパネリストに迎え、「プロジェクトから俯瞰する照明デザインの新たな役割」についてディスカッションしています。
まず、4つの番組のダイジェスト映像を紹介。ニューノーマルな照明デザインとは何かを考え、環境やテクノロジーの問題、人がどう生きていくのか、どういう環境が社会にとって重要なのか、あるいは照明デザイナーがどんな役割ができるのかについてディスカッションは始まります。
長町氏から番組を見ての感想を求められた中井氏は、番組を通して光がインフラであることに気づかされたと発言。面出薫氏による「環長崎夜間景観整備」を引用して、人工照明ができたからこそ夜の美しさや夜の都市風俗・文化が生まれるという当たり前だと思っていたことに改めて気づいたと言います。さらに、各プロジェクトから、実空間から暗さがなくなり、人間の闇の部分を引き受けるような空間がなくなっていることへの問題意識も確認しました。一方、近藤氏は、派手派手しく明るく照らすのではなく、地域資源や歴史、物語を引き立てる役割としての照明に変化してきていることを感じ、コロナ過を通して照明デザインが転換点を迎えていることを指摘しています。
次に、ニューノーマルを念頭に3人でディスカッションを展開します。中井氏は、光がインフラであるとすれば、そこには本来人間的な場ができるはずなので、もう一度「人間らしさ」の側に引き戻す照明デザインやインフラデザインが求められると指摘。ただし、それを実現していくときの行政との関わり方の難しさがあると言います。一方、近藤氏は近代のクリエイティビティは個に閉じていたが、ニューノーマルのクリエイティビティは協働して違う人が力を合わせる「IからWeへのシフト」を想定し、そこに行政も組み込む必要性があると言います。ただ、長町氏は、景観法のなかでは夜間景観について記述されておらず、独自の知見がある自治体のみが夜間景観を作り上げている実情を説明。中井氏は、身近にある自然やみんなが慣れ親しんだ裏の神社など、自由に光を照らしてみるなどして、街づくりベースで夜の光を通して街を再認識することの重要性をあらためて感じたと話されています。
最後に、照明デザインの未来についてディスカッションする中で、中井氏は光を通してその裏側にある、暮らしをもっと豊かに想像できるようなデザインが重要なのではないかと言います。近藤氏も、パーマカルチャーデザインのように、いろんなものをうまく配置する関係性のなかで照明にも役割があると述べ、見過ごされてきた資源に光をあてたり、照明によってみんなが集えるようになったりと、光が主役になりすぎない方向へシフトしているのではないかと話されています。
テクノロジーによって光環境が多様に制御できる時代が来ているからこそ、人間の美醜や強弱、あるいは闇といった多面的に対応する夜の空間づくりに向けて、照明のあり方や夜間環境づくりの理念や手法、多様な主体の参画がますます重要になることを共に確認する機会となりました。
Profile
近藤ヒデノリ
クリエイティブプロデューサー
博報堂ブランドイノベーションデザイン局
中井 祐
教授・土木デザイナー
東京大学大学院
モデレーター 長町志穂
照明デザイナー
LEM空間工房