照明器具の読み方(機能照明と意匠照明)
照明デザイナーの仕事は光によって空間の機能を満足させた上で、情緒的な付加価値を与える事が求められます。このセミナーでは『照明器具の読み方』をテーマに、照明器具をデザインされた2名の建築家に作者の想いをうかがいながら、照明器具を選択する際の視点を探ります。
私たちが使用している照明器具の種類は多岐に渡りますが、大きく「機能照明」と「意匠照明」の二つに大別することができると、モデレーターの小野田行雄氏から説明がありセミナーがスタート。
「機能照明」は、ダウンライトやスポットライトに代表されるように、照射する光によって空間が表現されることを目的としており、器具自体は天井内部などに設置されて空間内に姿を現すことはほとんどありません。一方、「意匠照明」はシャンデリアやペンダンライトに代表されるように、多種多様な色合いや形を伴って、光が空間内で表現される、まさに意匠を伴う照明器具です。存在感を極力抑える機能照明に対して、意匠照明は華やぎや姿形が強く表現される存在感の強い照明器具となっており、作者の多様な想いを持って作られていると、小野田氏は言います。しかし日頃私たちは、意匠照明を選ぶ際に「作者の想い」に触れる機会はなかなかありません。名作と呼ばれる照明器具には意匠照明がとても多く、作者に建築家が多いことにも驚かされます。そこで今回は、2名の建築家に照明器具をデザインしたときにもっとも大切にした作者の想いをお聞きしています。
まず、建築家でありプロダクトデザイナーでもある黒川雅之氏に、数多い作品のなかから「DOMANI」と「IERI」というフロアランプについてお話をいただきました。
日本の文化と建築は床が主役であり、正座やあぐらをかいて座るという前提で家が作られてきました。昔の明かりや行灯、座布団や家具などあらゆるものが床に近いところに置かれ、茶室などあらゆる部屋は目線が低く、座の位置から見たときに美しくなるように設計されており、黒川氏の意識の中でも床を建築の中でもとても大切な要素として受け止めていると言われます。明かりも行灯のように床に置かれて明るく照らすもの、これを大事にして作ったのが「DOMANI」であり、「DOMANI」を作るに至った日本の建築文化に根ざした「座」の視点に関する光の方向性やデザインの考え方について話されています。その後、「IERI」が生まれるきっかけとなったエピソードから、人の生活や文化とその生活を豊かにする照明についてお話しをいただきました。
次に、革新的なコンセプトの建築で世界的な評価を受ける建築家、伊東豊雄氏は自身がデザインした「マユハナ」の考え方についてお話をいただきました。
照明器具というとさまざまな形の表現に終始してきたところから視点を変え、意匠照明の形を表現するというより「あかり」そのものを表現しています。また、これまではやや和風でもあり洋風でもありというときは和紙を使った照明器具しかなく、それに代わる和風でも洋風でもどちらでも使えるような照明器具はないだろうか、そういうことを頭に描きながら生まれたのが「マユハナ」だと伊東氏は言われます。さらに、サイズは小さなものから大きなものまで自由に全く同じ製法で作ることが可能で、基本的には何も変わらないという非常に単純なシステムで作られるということが第2の特徴だとお話しいただきました。
お二方の話から、作者の想いを知る前と後では、その照明器具の見方が大きく変わり選択する際の重要な決め手となることも数多くあり、意匠照明はその姿形だけでも情緒的価値をもたらすこと。そして、様々な考え方やストーリーを含んだ照明器具のデザインへの作者の想いを知ることがいかに重要であるか。そういったことを改めて理解いただけたのではないかと小野田氏は述べ、このセミナーが、今後皆さんが建築照明デザインを行う際に照明器具を選択する際の一助となり、これまで以上に照明デザインの価値の理解者が一人でも多くなることを期待してやまないと締め括りました。
Profile
伊東豊雄
建築家
黒川雅之
建築家、プロダクトデザイナー
モデレーター 小野田行雄
照明デザイナー