アジアのクリエーターはコロナ後に何を目指すか
パンデミックが終息した「コロナ後」は照明デザインと視覚環境にとって何を意味するのか、ユーザー体験空間を提供するために人間と空間が共存できる演出方法は?照明デザインの持続可能性について、オーストラリア、韓国、ベトナムから3人のパネリストが語ります。
最初のプレゼンターでありオーストラリア・メルボルンにあるNDYLIGHTS社のデザインディレクターとして活躍するスティーブ・ブラウン氏は、コロナ禍ではマスクの着用やロックダウン、旅行の規制などの新たなルールが登場し、規制に対する人々の強迫観念が見られたと言います。歴史的に見ても、世界的な大事件の後には空白が生まれ、必ず何かがその空白を埋めるためにやってきます。コロナ後の空白は何によって埋められるのかー。それは「さらなる規制の強化とグローバリゼーションの停滞」であり、最も危惧するのはコロナ後も引き続き新たな規制が作られ続け、照明デザインがそれらの過剰な規制に支配されると同時に、「画一的」な思考が増えていく可能性があることだと言います。しかし、照明の「質」とは、最終的に人間の目で測るものであり、照度計のような無機質な物で測るものではありません。照明デザイナーは照明の「質」を守ることのできる唯一の職能であり、規制が下される前に、IALDを含め、照明デザイナー全員が協力して声を上げなければいけないと訴えます。
2人目のプレゼンターで、都市の夜景や光害のガイドライン策定委員会のメンバーである韓国の照明デザイナー、ヨンソ・リー氏は、コロナ禍で人々がお互いの感情に触れる機会が希薄になったことを指摘します。ではコロナ後、照明デザイナーは人々が共感しあえる機会を創出するにはどうすれば良いのか。その答えは光の体験によって人々がお互いの感情に触れ合える空間づくりにあると言います。照明デザインは光の「質」という視点から人間の感情に訴えかけ、ただ光で照らすだけでなく、幸福をもたらす要素があると説明しています。
3人目のプレゼンターは、2017年にベトナム・ホーチミンを拠点とするShapeUs Studioの設立者であり、近田玲子デザイン事務所で照明デザイナーとして活躍した経験を持つホアン・リ・ハ氏。他の2名に比べると、このコロナ禍をポジティブに受け止めています。コロナ禍で資材の輸送が停止し、建築界で多くの問題が発生したという状況下で、現地での素材調達や照明の扱い方など、デザインプロセスをクリエイティブに変革していくことの大切さを実感したと言います。そして、自身が手掛けたThe Art Spaceを例に挙げながら、自然光を利用し、有機的で持続可能な素材として照明から自然光へシフトしたことを説明。コロナ禍では、ワークフローが1箇所に集中せず分散したことで末端からのフィードバックが得られやすくなり、ある意味で現地の人がより発言力を持ち、それがデザインプロセスや思考、意思決定のプロセスに統合されました。パンデミックは、持続可能性、資源の利用方法、ワークフローについて考える良い機会となったと語ります。
最後にモデレーターの近田氏は、3人のプレゼンテーションが”照明デザイナーがコロナ後に何を目指すべきなのか”を考える機会になればと話し、ディスカッションを締めました。
Profile
スティーブ・ブラウン
デザインディレクター
NDYLIGHT
ヨンソ・リー
工学博士
Urban Lighting-Design Partnership
ホアン・リ・ハ
ディレクター
ShapeUs studio
モデレーター 近田玲子
照明デザイナー
近田玲子デザイン事務所