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【EL01】魔法が起こる場所―自然光と人工光の融合

30年に及ぶキャリアの間に350以上のプロジェクトを手がけ、モデレーターの面出氏とともにIALD協会の役員を務めたこともあるシュルツ氏は、自らがCEOを務める照明デザイン事務所リヒトクンストリヒト社が手掛け受賞したデザインの中から、人工と自然の照明を巧みに融合させることにより、ユニークでインスピレーションを刺激し、詩的で美的に優れた体験を生み出すことに成功した例を選り抜いて紹介しました。
シュルツ氏の照明デザインの特徴として、このセミナーの題でもある、「自然光と人工光の融合」が挙げられます。その一例が、アレンショオップ美術館(ベルリン)です。このプロジェクトでは、切妻屋根の棟の全長に渡って水平のトップライトを計画し、そこから自然光を取り込んで、作品が掛けられる室内の壁を間接的に照らし、開館中の9:00〜17:00は、基本的に自然光だけでまかなう方法が採用されました。屋根の角度は、建築家が提案した角度からさらに5°の勾配をつけることで、100%間接照明による照明環境を作りました。自然光を最大限に活用することで、施設の維持費の低減が可能になりました。トップライトの縁には、補助照明として、照明器具も取り付けられています。

Stefan Mueller
Stefan Mueller
Stefan Mueller

 

また、別のプロジェクトである、ヴェストファーレン美術館(ドイツ中西部)でも自然光と人工光がうまく組み合わされて使われています。中央の吹き抜けホール上部に設置された乳白色の膜の素材を通して、その上のトップライトから自然光が差し込みます。ホール外周部に配置されたダークウッドの階段の上部には照明が埋め込まれており、床面上でも180〜200lxの照度が確保されるようになっています。これら2種類の照明システムにより、どのような天候でも適切な照度が床面で確保できるように設計されています。屋根が真上にある2階の展示エリアでも同様に、膜素材を通した自然光が展示エリア全体を照らし、外周の壁面上部には、自然光を補足するために人工照明が膜天井の上に配置されています。

Marcus Ebener

 

最後に、新丸の内ビルディングの照明デザインを担当した経験を持つシュルツ氏は、日本の照明デザインについて聞かれ、設計・施工に関してはドイツも日本も高い水準を保っており、プロジェクトの進め方がやや官僚的であることに関しても、両国で大きな違いはない。さらに、質に重きを置く日本人の照明デザインへのこだわりに関しても、満足していると話しました。

【日時】2019年03月06日 10:00-11:00
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 101会議室
【プレゼンテーション】アンドレアス・シュルツ氏(リヒトクンストリヒトCEO)
【モデレーター】面出 薫氏(ライティングプランナーズアソシエイツ代表)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞

Profile

Andreas Schulz

照明デザイナー
Schulz氏は30年以上にわたり、照明デザインの分野に携わっています。1991年には、ドイツの ボンとベルリンでLicht Kunst Licht(LKL)を設立しました。LKLはこれまでに、世界中で850件を超えるプロジェクトに参加し、国際的に権威ある照明デザイン賞を多数獲得しています。Schulz氏は、IALD Europe Steering Committee(IALD欧州運営委員会) の委員長も務めています。

面出 薫

照明デザイナー
株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ 代表取締役
東京国際フォーラム、JR京都駅、六本木ヒルズ、シンガポール中心市街地照明マスタープラン、JR東京駅丸の内駅舎ライトアップなどの照明計画を担当。著書に『世界照明探偵団』鹿島出版会、『陰影のデザイン』六耀社、『LPA 1990-2015 建築照明デザインの潮流』六耀社など。照明文化研究会「照明探偵団」の団長。