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【EL17】光の表現―照明デザイナーが芸術から学べること

西洋の絵画における光の表現を分析することで、「光」はどのように表現されるのか。ドイツの照明デザイナーのポーラ・ロンガト氏は、照明デザイナーは日々照明を取り扱っているにも関わらず、「光の表現」という抽象的なトピックに関して、あまり考えたことがないのではないかと問題提起しました。

これに対し、まずヨヘン・ロッヒャー氏の方から、ヨーロッパにおける光の理論の歴史に関して説明がありました。ダ・ビンチは絵画に関する論文の中で、光には「狭角の直射光」、「広角の直射光」、「拡散光」などを含む5つの光の種類があり、さらに、「投影された影」、「Dark/Light Effect(キアロスクーロ)」などを含む3つの影の種類があると唱えています。

次にゲーテは、色は「明るい」、「黄色」、「赤」、「青」、「暗い」の順に配列されており、黄色は光に一番近い色だと考えていました。ただ、根拠は間違っていますが、結論だけで言うと現代の科学に反するものではありません。人の目は、赤、緑、青の光に反応する錐体(すいたい)によって色情報を捉えて脳に送るのですが、黄色は赤と緑の両方の錐体が活性化されるため、感知する光の量が最も多い色なのだそうです。そのため、歴史的にも黄色が最も光に近い色として捉えられてきたのではないかとロッヒャー氏は考えます。

ロンガト氏は、これらの理論がゴッホ、ユリィ、エドワード・ホッパーなどの絵にどのように適用されるかを検証しました。そこで分かったことは、「黄色」と「白」はやはり光を表現する色として最も多く使われているということです。また、ダ・ビンチが挙げた光と影の要素が全部揃っていなくても、光を認識することができるということも分かりました。例えば、ゴッホの「アルルの夜のカフェ」では、 影は中央のビリヤード台の下にしか描かれていません。しかし、照明器具が描かれていることや光が黄色で表現されていることなどから、光の存在を感じることは十分可能です。ただ、光に関する情報(光の種類、光の方向、影のつき方など)が多ければ多いほど、より具体的に光の仕様を理解することができるということも分かりました。

以上のことは、照明デザイナーが日々の業務においてデザインをcommunicate(伝達)する際に、プロジェクトのフェーズや、情報の伝達先(施主、建築家、メーカーなど)ごとに情報の質と量や仕様の精度を調整する上で、とても参考になるのではないかと両氏は考えています。

【日時】2019年03月07日 15:30-16:30
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 101会議室
【プレゼンテーション】ポーラ・ロンガト氏(シニアライティングデザイナー)
ヨヘン・ロッヒャー氏(weißpunkt und purpur, Berlin/Germany シニアライティングデザイナー)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞
 

Profile

Paula Longato

建築を経て照明デザインを学んだLongato氏は、心や感性に働きかける照明の仕事に情熱を傾けています。幅広い興味をもち、さまざまな分野の知識を関連づけることで、他に類のない人間中心のデザインをクライアントのために生み出しています。2008年より、アラップ社のベルリンオフィスに勤務。

Johen Lochner

景観設計を経て照明デザインを学んだLocher氏は、デザインのアイデアを形にする照明の細部と技術的側面に情熱を傾けています。景観設計や照明ワークショップの実績と指導者としての経験を生かし、光と照明の分野でオールラウンドに活躍しています。