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【EL16】地方創生とあかり~専門家起用ケーススタディ~

「地方創生・まちづくり」において、プロジェクトを実践する上での司令塔人材や各種専門家の起用は重要です。大規模な都市改修と景観ガイドラインづくり・使いこなしの社会実験や組織化の実践が進む「長門湯本温泉」を一つのケーススタディとして取り上げ、その役割・プロセス・運営などについて、行政の立場からその手法に関して経済産業省の木村隼斗氏が解説しながら、併せてソフトとハードの両面での「あかりの役割」をモデレーターの長町志穂氏と考察しました。

旅館の廃業で温泉街の中心に生じてしまった空地の活用が課題となる中で、市長が星野リゾートに相談したところ、個別のアイデアでなく街全体のコンセプトと実現するプランが必要という話から、公共事業と民間の仕事がスタート。ピーク時40万人近くいた観光客が20万人以下になっているという状態で、木村氏が着任し、町の現状をチェックすることになりましたと、長町氏が経緯を説明します。

木村氏は、着任時、まさに旅館が解体され空地ができていくという光景を見た時、このまま何もしなければ状況は悪くなるだけだと感じたと言う。そこで柱として、長門湯本温泉にある資源を利用する観光まちづくり計画を立てます。そして、この計画で大事だったのは、作れば需要がついてくるという発想でなく、実際に使われ、事業を継続していくためにはどうしたらいいかという「使う目線」から考えていき、それを1個ずつ実現していくことだと。
そのためには、しっかりとした推進体制が必要だと考え、デザイン会議と推進会議を立ち上げます。行政の職員や地元の住民、全体を仕切る司令塔、ランドスケープデザイン、夜間照明ななどを担当する専門家と地元プレイヤー、金融機関が集まり、月1回デザイン会議を実施。さらに地元住民との意見交換やワークショップを重ね、意思決定をし、社会実験を実施します。

その中で、官民で社会実験や事業を進めていく上ですごく大事だと実感したのが、一体感、共感をつくることでした。大きなきっかけとなったのが、この温泉街の出湯と言われる公衆浴場「恩湯(おんとう)」の再建に向け、ます必要となるのは老朽化した建屋の取壊しです。取り壊しを前に、地元が大切にしてきた恩湯への感謝と、将来実現したい空間イメージを形にするため、地元有志が手作りイベント「Thanks ONTO」を開催。ここで多くの方の共感を生んだのは、長町氏の協力のもと、恩湯を一番かっこいい形で送り出そうと実施したライトアップ。普段は真っ暗だった橋や周辺の木々を、あかりで照らすだけでこんなに空間が変わるのだと。自分たちが大事にしている場所で専門家も若手も、全員が一体となって取り組むことで、そのことを実感することができました。

この取り組みの中で、照明のすごさを感じたと木村氏は言います。古いもの、みんなが大事にしてきたものであっても、あかりで照らすことで新しい価値、こんなにいいものだったんだと実感できる、そういう力が照明にはある。地域固有の資源の魅力を再発見し、さらに引き出すことができる照明に携わる方々には、ぜひまちづくりの領域で力を発揮してほしいと思っています。


【日時】2019年03月07日 14:15-15:15
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 102会議室
【プレゼンテーション】木村 隼斗 氏(長門市 長門湯本温泉観光まちづくり推進会議委員、経済産業省 商務情報政策局 課長補佐)
【モデレーター】長町 志穂 氏(LEM空間工房 代表取締役)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞

Profile

木村隼斗

2007年東京大学法学部卒業、経済産業省入省。2015年長門市経済観光部理事・成長戦略担当として着任。「長門湯本温泉観光まちづくり事業」を多様な専門家を起用したプロジェクトとして推進。平成30年より現職

長町志穂

京都工芸繊維大学卒業 京都造形芸術大学客員教授 大阪市・神戸市景観審議会委員。実績「神戸市フラワーロード、メリケンパーク」「堂島大橋」「天橋立あかりのまちづくり」「水木しげるロードリニューアル」など