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【EL14】~人にやさしい照明空間を求めて~

超高齢化社会を迎える日本において、また2020年のオリンピック・パラリンピックに向けてユニバーサルデザイン(UD)の観点からの空間整備が求められ、公共空間における照明デザインの役割はますます重要になっています。UDのコンサルティング経験が豊富な鹿島建設の原利明氏と公共空間の照明コンサルティング経験が豊富な松下美紀氏を迎えし、照明デザインの役割について語り合いました。

まず原氏は、視覚を失っても、残りの聴覚や触覚などから空間情報を得られるのではないかと問いかけます。混んでいる駅で、私たちは本当に階段を視覚情報だけで認知しているのか?階段を昇降する足音をその手がかりにしているかもしれない。つまり、視覚以外の聴覚や触覚などの人間の五感を使って空間の情報を得ることができる。これがまさに人にやさしい空間づくりのエッセンスになると考えていると言う。このエッセンスが凝縮されているのが、松下氏が携わった福岡市営地下鉄七隈線です。

この七隈線は、人にやさしい地下鉄を目指してということで、トータルデザインをすることから始めたと松下氏は言います。検討委員会や調査等を重ね、「ヒューマンライン」、「ヒューマンマインド」、「コミニティマインド」、「アドバンスマインド」の4つの切り口を導き出しました。

照明はできるだけ天井を高くみせるため、また、狭隘感を減らすために間接照明を多く取り入れました。また、弱視者の方にとってのわかりやすさを求めて、ホームドア前の色温度を変えてコントラストをつけています。加えて、駅での「見やすさ」、「移動のしやすさ」、「わかりやすさ」をテーマに、健常者のみならず、弱視者、車いすの方の目線で、動線、券売機やサインの共通の色彩計画を検討しました。

モデレーターの福多氏からは、照明による視覚以外の感覚に対してアプローチの仕方、役に立てる方向性とは、と質問がありました。これに対し原氏は、様々な利用者ニーズを視覚以外の他の感覚器からもアプローチし、様々なユーザのニーズの共通言語を見出す。それを統合していくことで、新しい空間がデザインされることに期待したいと。松下氏からは、心理的な要素を加味しながらデザインしていくことが、これからの健康や未来に向くデザインの1つの要素になると答えています。
最後に両氏は、統合とは足していくことではないと。つまり、1+1=2は、従来のバリアフリーの考え方です。1×1=1だと。1×1×1×1でできた1は、プラスではなく「1」だけれども、いろいろな要素に絡んで行く。それがきっと、人にやさしい空間だろうと、二人の結論に行き着きました。


【日時】2019年03月07日 13:00-14:00
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 102会議室
【プレゼンテーション】原 利明 氏(鹿島建設 環境・性能グループ チーフ)松下 美紀 氏(松下美紀照明設計事務所 代表取締役)
【モデレーター】福多 佳子 氏(中島龍興照明デザイン研究所 取締役)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞

Profile

松下美紀

1989年松下美紀照明設計事務所を設立。日本全国のプロジェクトへ参画し、重要文化財の照明デザイン、国立公園や、まちの照明ガイドライン制作、教育施設、文化施設、医療施設、交通機関から商業施設まで幅広い分野の光環境を創出。
また、照明デザインに関するアドバイザー、審議会委員、大学の講師を務める。

原利明

1990年鹿島建設(株)建築設計本部入社。2004年から2年間(財)国土技術研究センターで行政のバリアフリー施策の調査・研究に従事。現在、人間の五感を切り口にダイバーシティを支えるデザインに取り組む。

福多佳子

1997年中島龍興照明デザイン研究所取締役。2009年から3年間横浜国立大学ベンチャービジネスラボラトリー非常勤講師。光の心理的効果を生かした照明計画に取り組む。著書に超実践的「住宅照明」マニュアルなど。