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【EL12】責任ある照明:照明デザインが持つ影響力と新たな倫理

照明デザインは、最初は機能的で視覚的に魅力的な照明環境をデザインすることが主な目的だったのに対し、90年代前半からはそれに加え、エネルギー保全や環境への配慮というより重要な役割を担うデザイン分野の1つになりました。その頃、IALDでも「持続可能なデザイン」の委員会が発足し、米国の照明デザイナー、マーク・ロフラー氏はそこで主導的な役割を担うようになりました。

環境への配慮に対する意識の高まりに伴い、2000年代にはLEEDという建築・設備の環境性能評価システムが導入され、照明デザインもLEED認証を受けるために、その数値的評価基準を満たすことが求められるようになります。近年は、WELL認証が導入され、照明が人の健康や生産性に及ぼす影響さえも評価の対象になりました。その顕著な例が、「概日リズム」と呼ばれる体内時計のサイクルで、それに合わせて照明設備の色温度や照度を調整することで、人体に良い影響を与えることができるという考え方です。

このようなトレンドに対し、ロフラー氏はIALDの行動規範に立ち返って、本当に「良い照明デザイン」とは何なのかを見つめ直す必要があると言います。IALDの行動規範では、照明デザイナーは自身の専門分野においてのみ業務を提供し、社会に対して悪影響を及ぼすプロジェクトを行ってはならないとされています。照明と人間の健康との因果関係は、まだまだ研究が必要な課題であり、照明デザイナーがそのようなことを、あたかも医者が患者に薬を処方するように、クライアントに進めるのは現段階では拙速であり、分からないことは分からないという正直さが必要だとロフラー氏は訴えます。

さらに、照明システムがIoTに組み込まれていくことに対しても、ロフラー氏は警鐘を鳴らします。IoTに組み込まれた照明システムが自動的に人間の行動を予期し、自然光の活用などを自動制御で行ってくれるのは素晴らしいことだが、他方で、IoTがあまりにも生活の中に入りすぎて監視ツールとしても利用されかねないことから、IoTの普及によるプライバシーの侵害という側面に対して、照明デザイナーはどう対応すべきか考える必要があるとロフラー氏は言います。

このように、50年前にIALDが発足されて以来、「良い照明デザイン」の定義は変化し、世界60カ国に総勢1500人近い会員を持つ協会へと成長したIALDの、全世界に及ぶその影響力は、より良い世界の構築のために使われなければならないとロフラー氏は結びました。


【日時】2019年03月07日 11:15-12:15
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 102会議室
【プレゼンテーション】マーク・ロフラー(マーク・ロフラーデザインコンサルティングLLC)
【主催】日本国際照明デザイナーズ協会、日本照明工業会、日本経済新聞

Profile

Mark Loeffler,

30年以上にわたり、照明デザインおよび持続可能なデザインを手がける。舞台照明デザイナーとして出発するが、建築照明、昼光照明、グリーンデザインの分野に転向し、パーソンズ美術大学 の大学院課程を修了。人々に喜びと元気を与える健康的で持続可能なデザインを提唱し、米国をはじめ世界中の著名な教育機関、医療施設、研究機関、企業、団体の建物や、レクリエーション施設のコンサルティングを手がける。2018年、Mark Loeffler Design Consulting, LLCを設立。建築家、エンジニア、プランナー、建物のオーナーが、照明および持続可能なデザインに対する思いを形にできるよう支援している。また専門家を対象とした会議や大学での講義・講演も広く行っている。