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【EL08】輝度設計と照明デザインの未来

照明シミュレーションはDIAluxなどのソフトが手軽に扱えるようになった今、次の課題は数値化、視覚化されたシミュレーション結果を「人の感覚」につなげていくこと。それにはまず「明るさ感」を評価する指標が必要ですが、多方面で研究が進む「照度設計から輝度設計への転換」が大きなヒントになります。富田泰行氏のナビゲートで、東京理科大学教授の吉澤望氏と照明デザイナーの岩井達弥氏とともに、照明デザインへの活用について掘り下げて行きました。

まず、吉澤氏から、輝度設計の過去と現在と未来についての概説がありました。1950年代頃からずっと言われているのは、どの時代でも、照明デザイナーにとって輝度は重要だということ。実際の設計では扱いにくかった輝度が、近年照明シミュレーションによって使い勝手が良くなってきました。コンピューターの処理能力が高まり、シミュレーションに時間がかからなくなってきたこと、輝度分布を設計時に計算できるようになったこと、そして、デジタル処理による写真測光法で、空間全体の輝度分布を実際の空間で測定できるようになったというのが非常に大きいことです。その意味で、これからの照明デザイナーにとって、照明シミュレーションは欠かすことのできない、非常に有効なツールと言えます。

その一方で、輝度に関する明確な指標がまだ整備されていないことなど課題もあります。それに対し、メーカーや研究機関による様々な指標づくりの提案がされるようになり、2016年に日本建築学会が照明環境基準を作り、空間の明るさを重視する基準の指標として輝度が採用されました。このように輝度設計に関する動向は様々な分野において実用化に向け活発化しつつあります。

次に岩井氏より、自身の経験やプロジェクトの計画の中で、どんな時に輝度設計の必要性が感じられるかということを紹介されました。
国立新美術館の例で、コンセプトは森の中の美術館ということで、パーゴラから光がもれるような間接照明で計画したのですが、天井と壁、壁の上下の輝度バランスの確認は重要であったと言います。しかし、このころシミュレーションによる輝度検証が十分できなかったので、一般の人を説得するには、モデルやモックアップを使用しました。
現在は、DIALuxによるシミュレーションを輝度評価ソフトで検証することが可能で、様々な状況を再現し検証できるようになりました。

最後に、岩井氏からシミュレーションから輝度評価がスムーズに出せて、それを人がヘッドマウントディスプレーなどで実体験できる方法を確立させてほしいという研究者への要望があり、これに対し吉澤氏は、照度ではできなかったが、輝度になると視覚的にどう見えるかまで説明がつけられるはずなので、そこまでの参考になるような評価軸と表現方法を今後、出していくことができると応え、このセッションを締め括りました。

【日時】2019年03月06日 15:30-16:30
【会場】東京ビッグサイト 会議棟1階 102会議室
【プレゼンテーション】吉澤 望 氏(東京理科大学 教授)、岩井 達弥 氏(岩井達弥光景デザイン 代表)
【モデレーター】富田 泰行 氏(トミタ・ライティングデザイン・オフィス 代表)

Profile

吉澤 望

1993年東京大学工学部建築学科卒業、1998年東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程修了・博士(工学)取得、2010年-東京理科大学理工学部建築学科、建築照明・昼光照明等の研究に従事

岩井 達弥

建築を学び建築照明デザインの世界に。国立新美術館をはじめ多くの建築照明デザインを担当。2015年京都国立博物館平成知新館で照明学会照明デザイン賞最優秀賞受賞。人の心に語りかける光の風景づくりを心がける。

富田 泰行

卒業後、石井幹子デザイン事務所を経て、独立。トミタ・ライティングデザイン・オフィス設立し現在に至る。