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2025.09.16
学生のためのセミナー「のぞいてみよう 照明デザインの世界」Q&A
2025年8月8日開催の学生のためのセミナー参加者より届いた17の質問に、登壇者が回答しています。ぜひ参考になさってください。
Q1 焚き火には癒しの効果があると考えられていますが焚き火の色温度は癒しよりも情熱を感じる と考えます。焚き火の癒しの要素 として考えられるものは焚き火の大きさが小さいことと音と炎のゆらめきから生まれるものだと考えました。皆さんが考える何が焚き火を 癒すものとして人に影響を与えていると考えますか?
A1 質問の中にあるように、低い色温度の光は熱を感じやすいので、それが大きすぎると暑苦しく感じて癒しとは程遠くなるので、炎の大きさや音、ゆらめきが人に対して心地よいと感じさせる要因であることは確かだと思います。さらに付け加えるとするならば、周辺の環境の明るさが暗いほど、焚き火のぼんやりとした小さな明かりがコントラストとして強調されることで、より印象に残る心地よい時間になると考えます。(谷口氏)
火そのものも魅力的ですが、しいて言えば火のまわりに生まれる雰囲気の方により惹かれます。暗闇の中で火が灯ると、その周囲にぼんやりとした領域が生まれて、なんとも言えない居心地の良さを感じます。また低い位置で火を灯せば、まわりにいる人の顔も下からやさしく照らされて、ふとした瞬間、誰かの親密な表情にハッとさせられることもあります。そんな人の心に触れるような感覚を、照明デザインの実務のなかでも生み出せたらと願っています。(安田氏)
Q2 登壇してくださった方々が就活の際に意識していた自分の軸をぜひ教えていただきたいです。
A2 自分がどう世の中に貢献したいか、と考えたとき、不特定多数の人の幸福を考えたいと思っていました。そのため、公共建築など幅広い人が集う場をつくりたくて、最初は大規模物件を扱っているかを特に重視していました。今、多様な物件に携われる機会が多いので充実していると感じます。(谷口氏)
軸というほどのものではありませんでしたが、さまざまな人や物に出会うなかで、自分がどんなときに心を動かされて、どんなときに心が窮屈に感じるのか、気を向けていたと思います。また、自分の「好き」を突き詰めるためにどんな人たちと一緒に仕事をしたいか、どんな環境に身を置いたら先の自分をポジティブに想像できるか、思い描いていたと思います。(安田氏)
Q3 照明デザインを通して何か人と人との繋がりを感じられた瞬間があれば教えてください。また、暮らしの質を高めるために必要なことは何でしょうか。
A3 照明デザインをする上では、施主はもちろん、コンサル、意匠設計者や設備設計者、電気工事業者、メーカーなど、多くの人と関わります。各部門の人たちと意思疎通を図り、意見交換をしてよりよい計画へと昇華していくプロセスに、人との繋がりを感じています。そのプロセスを経てプロジェクトが完了し、魅力的な空間に仕上がった喜びを共有するのも嬉しい瞬間です。
まずは、自分がどんな暮らしをしたいのか、どんな空間であれば暮らしの質が高いと感じるのか、思いを巡らせてみてください。また、こんな暮らしがしてみたいな、と思う写真を集めてみてください。そうすると自ずと必要なことが見えてくると思います。暮らしの質を高める要素は室温や湿度、香り、音など様々あります。照明に関する要素としても、明るさ、色温度、照明手法(どんな器具を使うか)など工夫できる箇所は多いです。昼間のような全体が明るい空間とは一味違う、夜ならではのメリハリの利いた光環境を意識すると特別な空間に一歩近づける気がしています。(谷口)
どんなお仕事もそうですが、デザインという仕事はとりわけ人とのコミュニケーションが大切な土台になっています。所属する会社の中でも日々の出来事にふと感謝を覚えることがありますし、プロジェクトを通して築かれた信頼関係のなかでも、少しでも役に立てていることがあればありがたみを感じることがあります。
前向きな気持ちになれるのは、太陽の恵みを心と体いっぱいに感じられたときです。(安田氏)
Q4 照明の配置や器具を選定する際、検証を繰り返し行うと思うのですが、その検証を行うための仮説はどのように設定しているので しょうか。「どんな照明器具や光の広がり方があるのか」ということは経験して知識を増やしていくのか、CGなどを使用してある程度想定するのか、などございましたら教えていただきたいです。
A4 まず「①ほしい光の効果を決める」デザインの段階があり、その後「②その光の効果を得るにはどの器具が適当か」と器具選定の段階があります。①については、経験ももちろんですが、世の中でどんな手法が使われてきたのか事例を知ることや、照明メーカーのカタログで、どんな器具でどんな効果が得られるのか確認することで引き出しを増やしています。②の段階で必要な実際の照明効果についての検証は、実機を用いて実際に確認することが最も確実で、光そのものの質を確認する際には実機を見ることを重視しています。また最近ではDIALuxという照度計算ソフトを使用して、照度や配光などを確認して選定の精度を高めています。全体の光のボリューム感を確認するのにも役立ちますし、ほかの方へのプレゼン時にも、完成形がイメージしやすいので活躍しています。(谷口氏)
光源や照明器具はさまざまな種類があり、同じ性能をうたう器具でもそれぞれ特徴があったりします。技術も日々進化しているので、常にたくさんの光に触れて、机上では気づかないようなところにまで意識が向かうよう、感覚を養うことも大切だと感じます。(安田氏)
Q5 皆さんが照明計画ではやりきれない夜間景観の不安要素などはあったりするのでしょうか?
A5 光の影響力は夜間景観にとって大きく、見え方を一新させる力がある一方で、光には照らす対象を物理的に変える力はありません。街の規模になると、道路の形状や街並みなど、照明デザインではどうすることもできない部分も多いので、照明だけではなく、ランドスケープやサイン、ファニチャーなどと併せて総合的に景観を創っていく必要があるなと日々感じています。(谷口氏)
できあがった場所や空間はたくさんの方に使われるので、設計段階でどれだけ検証しても思いがけないことが起こったりします。光で解決できることもあれば、そうでないこともあるので、事業者や建築設計者、他のデザイナーの方々と協力しながら、できるだけネガティブな要素は取り除けるように努めています。(安田氏)
Q6 どんな制約が照明にとって一番制約になるか。
A6 制約があってこそデザインの力が必要になってくる場面だと思います。いつも悩むのは、照明器具をいかに隠すか、という点です。目立ってはいけないが、効率よく照らすには設置位置が見えるところにきてしまう…というジレンマはよくあります。(谷口氏)
他のお仕事同様、照明デザインにおいても予算や技術などさまざまな制約はついてきます。またそれら制約はプロジェクトによっても異なってきます。できるだけ新しい工夫やアイデアで乗り越えらえるよう取り組んでいます。(安田氏)
Q7 照明以外を専門にしていた方々が就職活動時にどういったことをアピールポイントとしていたのかが知りたいです。
A7 照明デザイナーにとって照明の専門知識を有することは非常に重要ではありますが、就職活動時には重視されるものではないと思います(授業や研究室で照明デザインに触れるのは貴重だと思うので)。それ以上に、何に興味があるのか(プロダクト、建築、アートなど)、その興味に対して学生時代どのような活動をしたのか、がポイントになるのではと思います。照明デザインの分野は幅が広いが故に、照明デザイナーはそれぞれに得意分野を持ち合わせているので、そことマッチするかは採用を判断するうえで大切になってくると思います。(谷口氏)
それぞれの方に強みがあると思いますので、私自身気にしていることは、話す内容はシンプルに分かりやすい言葉で、「どう」伝えたら少しでも相手に理解してもらえるか整理することです。正直、今も難しいと感じています。(安田氏)
Q8 照明器具の形状を設計する時、どのような考え方をされますか?
A8 これまで照明器具の形状を設計する機会があまりなかったのですが、もしするとしたら、コンテクストを重視します。ただ自分が美しいと思う形状、ではなく、その形状が生まれるにあたって背景として何かしらのストーリーがあってこそ、普遍的な価値のあるデザインになっていく可能性があると信じています。大抵の照明器具は設置後数年以上は使われるので、時が経っても古臭くならないような形状を意識する必要があると感じています。(谷口氏)
照明器具のみを単独で設計することは非常に稀です。コンセプトの一部として器具設計を依頼されるもありますが、まずは一番大切な、その光/ 照明器具が何のためにあるのかについて話し合います。そのうえで実際の器具の大きさや形状、素材などを実際に試しながら決めていきます。(安田氏)
Q9 コンセプトを考える際の思考回路や、普段、照明デザイナーの方々がどんなことを考えているのかを知りたいです。
A9 コンセプトは「夢」を与えられるものでなくてはならないと思って作成しています。その夢は空想であってはならず、どう現実に落とし込んでいくかが重要なので、その空間についての調査に多くの時間を費やしています。
公共空間を扱うことが多いので、出かけたときにはどんな人がどんな空間の使い方をしているかは気になって観察しています。思いがけない使われ方を見つけるとなんだか嬉しいですし、使い方から見えてくるデザインの在り方が発見できると面白いなと思っています。(谷口)
百人百様で、デザイナーさんによってアプローチはまったく異なると思います。ですので自分が好きな建築や照明を見つけたら、その方の本を読んだり、セミナーに足を運んで直接お話を聞いたりして、少しでも頭の中を覗かせてもらうと、新しい発見があると思います。(安田氏)
Q10 照明デザインとは何か知りたかった。
A10 「照明デザインとは何か」はこれからもずっと考え続けられる命題であり、私も私の中での答えを模索しています。日々更新されるLED光源の進歩、新たな照明器具の開発に合わせて、使える絵の具の種類が増えるように、できる照明デザインの幅も広がっていきます。業界のこれまでの伝統を継承しつつ、新たな風を吹かせるように研鑽したいです。(谷口氏)
Q11 照明デザイナーとして,学生時代に履修してよかったと思う科目は何ですか? 履修しておけばよかったと思うことがあれば,それもお教えください.
A11 照明デザイナーに限らずどの職業でも当てはまると思いますが、自分の知見の幅を広げることは履修の際に意識しておけばよかったなと思います。専門分野を深く知ることも重要ですが、物事を多面的に見る能力が、実務時に活きてくると感じています。私は建築学科出身ですが、例えばアート分野、心理分野や社会活動についても学習してみたかったです。(谷口氏)
建築系の科目に偏ってしまいますが、私自身は建築環境、特に光環境や視環境の講義を通して、建築の世界を少し違った視点でみるきっかけになりました。(安田氏)
Q12 LEDはモデリング効果が強かったりしますが,その光が相応しくないなと感じた計画があったら教えて下さい。
A12 CGシミュレーションの結果と、実際に完成したイメージが乖離していた場面というのは(なるべく誤差がないように努めていますが)時々あります。特に影響を受けているのが内装の材質や色だと感じています。シミュレーションはモノクロで行うことが多いので、内装の色が濃い色だったり反射しやすい素材だったりすると、想定外なことが起こることがあります。なるべくシミュレーションにも反映したいのですが、内装の仕上げが決まるのは工程の中でも後になってくる場合が多いので、難しいところです。(谷口氏)
モデリング効果の使われ方が分かりませんでした、、、(安田氏)
Q13 照明メーカーに今望むことは何でしょうか?LED照明に望む機能はありますか?
A13 最近は無線制御が一般的になりつつあり、より簡単に、より便利に照明シーンを作れるようになりました。メーカーの壁を越えてのインポートも可能になってきており、音響や空調との連動も進んでいます。更なる拡張性、利用シーンの多様性、などを一緒に考えていけたら面白いのではないかと思います。(谷口氏)
照明器具の製造サイクルもサーキュラーエコノミーの考えにより近づいて、短命で廃棄されてしまいそうな器具たちをできるだけ救ってほしいと願っています。(安田氏)
Q14 メーカー,工事業者ほど生成AIを使う昨今ですが,照明設計者として今後の情報錯綜をどのように見ておられますでしょうか。
A14 新しい技術は積極的に取り入れていきたいと考えていますし、既に置き換え可能な業務であれば生成AIに頼ることも増えています。ただし、あくまで道具としての位置づけに留める必要があると思います。生成AIに何を頼むか、どんな方針でいくか、は人間が考える必要がある部分であり、そこにこそ照明デザイナーのスキルが試されると思います。(谷口氏)
一部のデザイン業務やそれに不随する業務に、AIが入り込んでいるのを実感しています。技術の進化とともに、過去には失われてしまった照明デザイナーの職能もあったと思いますので、この先AIとどう共生していくのか、興味をもって観察していきたいと思っています。(安田氏)
Q15 照明設計士の専門的なスキルや知識を詳しく教えていただきたいです。また、照明設計についてのおすすめの勉強法や書籍などありましたら、教えていただきたいです。
A15 書店や図書館の建築コーナーに照明についての本が数多くあるので、一度読んでみてください。光に関する基本用語や、LEDの特徴、照明器具の納め方などを知ることができると思います。また、照明メーカーのホームページに掲載されているコラムなどもおすすめです。セミナーを開催していたりもするので、是非参加してみてください。(谷口氏)
光の面白いところのひとつですが、専門書から得られる知識と、実際に体験した光の現象が必ずしも一致するとは限りません。どんな光でもできるだけたくさんの建築や空間に足を運び、自分の体で感じるようにしています。(安田氏)
Q17 1番好きな照明デザイン等があれば教えていただきたいです。
A17 一番好き、というより、すべての照明デザインの根幹になっているのは、太陽光・自然光です。自然光の持つパワー、温かさ、色彩、全部が計画の手本です。最近はよくフルカラーを用いた照明演出を提案していますが、空間になじむ、調和のとれた色味だなと感じるのは、空の色や海の色など、日々の風景の中で見られる色です。光を感じる人体にとって、心地良いと感じるのはやはり自然に由来するのだなと実感しています。(谷口氏)
自然の光であれば、死ぬまでにオーロラは見に行きたいと思っています。(安田氏)