光の中に闇を見つける
―世界的な夜の喪失に立ち向かうための責任ある屋外照明デザインの役割―
ディレクター ジョン・バレンティン 氏
新たな環境上の脅威となっている「光害」は、夜空や夜行性野生生物、エネルギー安全保障、公共の安全に影響を及ぼすことが明らかになっています。他の環境汚染とは異なる「光害」の原因と結果について照明デザインと建築環境の役割に焦点を当てた、元国際ダークスカイ協会ディレクター、ジョン・バレンティン氏によるプレゼンテーションです。
夜間環境にある自然に起因しない光を示す「夜間の人工光(Artificial Light at Night、略称ALAN)」は、太陽や月、星などの熱源からの光に適応している生物にとっては、非常に有害であることが分かっています。メラトニン作用スペクトルの研究でも、人間のシグナル伝達ホルモンの生成と分泌が人工光の影響を受けていることが知られています。40億年前の地球上の生物が、現在よりも暗い夜の環境で進化していたことを考えると、ここ130年の間に発展した電気による照明はごく最近の現象であり、人間を含む生物たちはまだ明るい夜の環境に適応できていない。さらに、現在の都市における「夜間の人工光」の多くは、人の生活から離れた場所、時間、量で使用されており、無駄に消費されていることも問題だとバレンティン氏は指摘しています。
例えば、ニューヨークやラスベガスのような人口密度が高く、夜の経済活動が盛んな都市から発せられる「夜間の人工光」の影響はかなり広範囲に及んでおり、そのほとんどが望まれない無駄な光だと言います。その一方で、イスラエルの3都市で実施したアンケートによると、夜の風景では、照度を高くすればするほど治安の維持が難しくなることも分かっています。バレンティン氏は屋外環境から完全に「夜間の人工光」をなくすことはできないが、「夜間の人工光」と人間の関係をリセットし、今ほど多くの無駄を生むことなく、競合する利益に適切なバランスを持たせることが大切だと言います。
最後にバレンティン氏は、夜間の屋外環境での人工光について再考する方法を紹介しています。
まず、照明デザインを都市計画の初期段階から組み込み、照明技術と光害の両方に対する理解を深め、時間をかけて「夜間の人工光」を改善していくこと。次に、光害は環境汚染だと認知すること。煙突から出てくる煙が有害な汚染物質と認めているならば、「過剰な夜間の人工光」もまた汚染物質であることを認識するべきであり、照明における資源保護と汚染削減に法律や公的規制を設け、それを国民に支持してもらうよう努力すること。そして、アリゾナ州のフラッグスタッフなど、コミュニティがそうした取り組みに積極的に参加し成功した事例を参考に屋外照明を改善していくこと。
それらによって、環境への影響を最小限に抑えつつ、人々のニーズに十分に応えられる持続可能なレベルまで光の消費を徐々に減らしていくことができると言います。
光害の問題は深刻ではあるが解決策はすぐ手の届くところにあり、社会がより良い結果を望むならば、照明デザインが解決に向けた大きな担い手となることができると話し、セミナーを締めました。
Profile
ジョン・バレンティン
ディレクター
元国際ダークスカイ協会