Activity

イベントレポート

2021.05.14

第6回IALD Japan WEBINAR「『ハルカの光』作者が読み解く、「これからの光」とは・・・?」

今年2月にNHK Eテレで放送されたドラマ『ハルカの光』(全5話)。芸術品の領域に達した「名作照明」の専門店で働く主人公ハルカが、顧客に合う照明を選んでいく中で、相手の人生に光が差し、主人公自身も希望の光を見つけていくというストーリー。今回は、脚本を手がけた新進気鋭の作家矢島弘一氏と、IALD Japan理事の小西美穂氏に、ニューノーマル時代における“新たな光”との向き合い方を熱く語っていただきました。

 

 

対談は、矢島氏と小西氏が“朝ドラのような出会い”をしていたという話題からスタート。同じコーヒーショップの同じ“お気に入りの席”を密かに取り合うライバル関係だった二人。この対談企画が持ち上がり、小西氏が矢島氏の顔写真を資料で確認したとき、初めて「いつもあの席に座っている人だ!」と知ったとのこと。

 

そんな和やかな雰囲気で始まった今回のWEBINARは、矢島氏自身の光に対する意識や、ドラマ制作に関わる話などを、たっぷりとお聞きしました。

 

矢島氏は昔から、蛍光灯よりも自然光を好んだり、自分が気に入った照明や家具には“一般的なデザイン”とは異なる特徴があることを自覚されていました。そして20年以上前、クリエイターの友人の家を訪ねたとき、特徴的な照明器具や自然光を取り入れたこだわりの空間が「とても居心地が良かった」ことから、自分の感覚は間違っていないと自信がついたそうです。

その経験を機に、矢島氏は脚本家の道へ。光を意識することで人生が変わった『ハルカの光』の登場人物たちにように、矢島氏も光に背中を押されたのです。

 

「自分が明かりや光を意識して生活していることを制作陣は知らなかっただろうから、声をかけてもらえたことに何かの縁を感じた」という矢島氏。ただし、オファーが来た段階のプロットは、ハルカの光に対する意識が内向的に描かれていたそうです。そこで「光を見て背中を押された、という話にしませんか」と提案したという制作秘話を教えてくださいました。

また、第1話にアルヴァ・アアルトのGOLDEN BELL SAVOY、第2話にインゴ・マウラーのOne From The Heartなど、ドラマに登場する数々の名作照明も、矢島氏がインスピレーションに基づいて選定。

たとえば、ボクサーとしての栄光と挫折を味わった左京が登場する3話では、複雑なバックボーンをもつイサム・ノグチがデザインしたAKARIシリーズや、シンプルながらも緻密に作り込まれたToFU(デザイナー:吉岡徳仁)をチョイス。4話では、企画書にルイス・ポールセンのPHランプが指定されていたそうですが、そのときのハルカの思いに通じるのはHERE COMES THE SUN(デザイナー:ベルトラン・バラス)だと考え、変更したそうです。

PHランプは、ドラマの最終話に登場します。矢島氏は「名作照明界で代表的な作品であり、ハルカの気持ちを表すものとして、最終話にふさわしいと感じた」と話されました。

 

 

『ハルカの光』は東日本大震災から10年の節目に合わせて企画

されましたが、制作期間中に新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、世間の関心事はどんどんコロナ関係へ。しかし、人々が暗闇の中にいることは同じ。光を見つけて背中を押され、前に進んでいくというテーマが反響を呼びました。

「この時代だからこそ、もっと自宅の居心地が良くなるように照明や家具を探してみてほしい」と、この時代における新しい幸福の形についても話してくださいました。

 

さらに、コロナ禍の前から社会の“便利な仕組み”が家族や地域コミュニティから個人を分断し、孤立を進めているように思えると明かし、小西氏も「先人から脈々と受け継いできたものが断ち切られているように感じる」と共感。そうした中で『ハルカの光』は、「自分の“”を見つけるために行動すれば、背中を押してくれる空間と出会い、もっと前に進めると教えてくれた。それが嬉しい」と、光の専門家らしい感想を述べられました。

 

 

最後に「クリエイターに限らず、皆で明るい未来を探していくことが大事だと思う。自分の作品が少しでもその役に立てば嬉しいと思うし、そのために頑張っていきたい」という矢島氏に、小西氏から「これからも日本を明るくする作品を生み出してください」というエールが送られ、対談は終了しました。

 

【日時】2021年5月14日

【会場】IALD Japan WEBINAR

【モデレーター】小西 美穂

【パネリスト】矢島 弘一

【主催】IALD Japan