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イベントレポート

2022.12.9

第10回IALD Japan Webinar「What is WBS?~WELLってなに?」

WBS(Well Building Standard)は2014年に開発された建築物の空間評価システムです。人間の健康にフォーカスした環境作りが推奨されていることが特徴であり、世界中のオフィスやホテル、商業施設から注目を集めています。WELLとは具体的に何なのか、照明デザイナーとしてWELL認証に寄与するにはどうすればいいのか。これらを紐解いていくことを目的に、WEBINARが開催されました。当日は会場である東京デザインセンタークラフテックギャラリーに聴講希望者を迎え、IALD Japan WEBINAR初のハイブリッド開催となりました。
モデレーターは金田篤士氏(株式会社ワークテクト)と目黒朋美氏(トモルデザイン・メグロ株式会社)です。

まずWELLの10のコンセプト(空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ)、それからLEEDやCASBEEといった他の世界的な建築物認証システムが紹介され、世界のWELL認証を受けたオフィスの紹介PVが流されました。ビデオは、WELL認証を取得したオフィスが紹介され、その経営者がコメントをしているという内容で、金田氏、目黒氏は「現在の日本でここまで環境の良いオフィスは少ないが、今後このような方向性になっていくと予想される」と語られました。

次に参加者に対して、WELL認証を意識したオフィス作りをしているかという問いかけがありました。会場の照明デザイナーの方から、特にWELL認証は意識していないが、オフィスというよりも遊び場という感覚なので、必然的に居心地の良い空間になっているとの回答がありました。同じく会場参加の照明メーカーの方からは、自社のオフィスでは特にWELL認証などは取得していないが、WELL認証を取得したホテルのプロジェクトの照明制御に携わったというお話もいただきました。
Web上のアンケートでは、WELL認証に携わった方が5名、携わったことのない方が22名という結果になりました。
WELL認証を受けた建築物数世界ランキングで、日本は12位でした。アメリカがダントツで1位、中国が3位と意外に多い結果となりました。会場やWebでのアンケートからもわかるように、日本ではWBSはまだ広く普及しているとは言えない状況であり、WELL認証を取得しているプロジェクトの傾向としてはゼネコンや組織設計事務所の自社ビルが多いようです。

WELLの10のコンセプトのうち、「光」は110点中18点を割り当てられており「WELLの中でも照明が占める割合が多い」ことに金田氏が言及しました。18点の中で必須項目、加点項目に分かれており、必須項目が光暴露とビジュアル照明デザイン、加点項目がサーカディアン照明、人工照明グレア制御、昼光シミュレーションなど多岐に渡ります。
更に、LEED、WELLコンサルが使用するというIWBIのリストを目黒氏が公開され、「項目が細かくて驚いた。我々照明デザイナーは、必須項目はもちろん、加点項目を加味してデザインし、WELL認証に貢献していく必要がある」と述べられました。
金田氏は「WELL認証はメーカーの製品ごとではなく、空間や建物に対して認可されるものであり、我々にはWELLに適した製品を選択できるかどうかが問われている」と今後照明デザイナーに求められる役割を示されました。


ここで、会場参加の照明デザイナーから「WELL認証の項目には日本の照明デザイナーであれば当たり前にできている項目が多いのではないだろうか。底辺あげには適しているが日本では普及しづらいように感じる」という指摘がありました。
これに対し金田氏は「ミシュランの星システムのようなもので、オーナーはわかりやすい指標を求めている。そういった要望が増えてきていることを認識していきたい」、会場参加の別の照明デザイナーは「オリンピックのメダルと同じで、わかりやすいメジャメントがあることでプロジェクトとしての目標が明確になる。日本におけるJIS規格の推奨値を駆逐するためにも普及されるべき」とコメント。日本において、WELL認証を普及する必要性について語られました。


次に目黒氏が、加点項目のうち特に注目すべきポイントについてピックアップされました。
まずサーカディアン照明について。これは昼間にかけて4時間昼光を浴びて身体を活性化し、夜間は逆に色温度を下げてメラトニン分泌を促進します。このようにして効率的に入眠しやすいよう、照明や昼光の取り入れ方を工夫することで、サーカディアンを有効活用するというものです。この尺度として、目黒氏は等価メラノピック照度を紹介。これについて金田氏は等価メラノピック照度について調べたところ、カナダと台湾に研究施設があり、施設で実験的に研究されていることを述べられました。
昼光シミュレーションでは、コンピューターシミュレーションでの検証例が紹介されました。実際は東西南北や時間帯によって変化するため、検証例よりも深いことを問われるようです。
次に、目黒氏が個人的に専門家の話を伺いたいという「フリッカーを防ぐにはどうすればよいのか」という項目が紹介されました。
フリッカーはLEDの明滅現象、モアレ現象のことであり、画面の激しい明滅によって体調不良を引き起こすことがあります。国際基準は3kHzですが、日本は100V50〜60Hzと、PWM形式を採用しているため基準が甘くなっているのが現状です。


ここで、会場にお招きした玉田邦夫氏(有限会社 タマ・テック・ラボ)に金田氏が見解を求めました。玉田氏は舞台照明やテレビ番組の照明を長年にわたって担当されたスペシャリストです。玉田氏は「テレビ局では5kHz以上、最新の機器だと20kHz以上のものがある。PWMは制御が比較的容易だがフリッカーを引き起こすことがあるため、私は電流を可変し、電圧を一定にするフリッカーフリーの専用電源を採用している。局は特にフリッカーに対して神経質なため、一般的にフリッカーフリーの電流制御が増えてきつつある」と説明されました。

最後に、GoogleのLEED認証のプラチナを受けたCAのオフィスを紹介したビデオが流され、参加者は感想を求められました。
目黒氏は「WELL認証は、デザイナーだけではなくプロジェクトに関わる様々な業種の方とのコラボレーションによって実現される。照明に於いては、メーカーの理解と協力をもって健康や福祉のテーマに向かって進んでいきたい」とコメント。
金田氏は「世界の潮流として、WELLやLEEDといった基準を認識し、勉強、またそれを表現していく必要がある。照明のビジョン、未来を見据えて絵を描いていきたい」と締めくくられ、今回のWEBINARを終えました。

【日時】2022年12月9日
【会場】東京デザインセンター クラフテックギャラリー+ IALD Japan WEBINAR
【モデレーター】金田 篤士  目黒 朋美
【主催】IALD Japan